書くことがこんなにもためらわれる店は初めてだ。
私が書くものに影響力などないに等しいとは言え
まだインターネット上にほとんど情報がない店のことである。
何がきっかけで行列ができるような店になってしまうかはわからない。
このままの静けさでいて欲しい。
静かな山の中の、穏やかなやさしい人達の店だけに
「まもりたい」なんて思ってしまうのは私だけではないらしい。
「こんな素晴らしい店は誰だって好きだ」
「すぐに人気が出て当たり前だ」
そう思うからこその心配であり
この店を知ればそう思ってしまうのは当然のことなのだ。
「フレンチの修行をしたシェフの、フランス料理とお蕎麦を食べに行きませんか?」
素敵なマダムのお誘いを受けて車を降りると、
そこは山の中だった。
全身が洗われるような美しい山の空気。
お蕎麦の香りより好きな香りはフィトンチッドだけ、
と思っている私にはこれだけで最高のロケーション!
しかもザーッという水の音がすると思ったら前には川が流れている。
なんて美しいところに来たのだろう。
で、お店はどこに・・・
この小屋かな?
いや、そうではないらしく・・
あれだ!!
えー こんなに立派な二階建てのお家とは!
「シェフのおじいさんとおばあさんが住んでいた古民家を改装した店」
と聞いていたので、もっとこぢんまりした平屋を想像していたのだ。
しかも煙突もくもく・・・今まさにシェフがお料理を準備している?
今夜は私達だけの貸切(!)ということでますますワクワク〜〜♪
山の中の一軒家である「蕎麦とcafe 杢」の周りには桜の木がたくさんある。
しかも蛇行した川の畔にあるため景色が絶妙にひらけている。
桜の季節の素晴らしさといったらないらしい。
実は今回マダムはその季節を狙いに狙って予約を入れてくれていたのだが
今年は思ったより開花がずっと遅いよう。
ここからちょっと下った町と比べても気温が5度も低いので
下界ではすっかり葉桜となってきていてもここではつぼみもまだなのだ。
桜はなくともあまりにも美しい所なので
すぐお店に入ってしまうのがもったいなく、
店の脇の橋を渡って少しまわりをうろうろしてみる。
水の音、山の空気。
あああああ 私はやっぱり山が大好き。
この桜が咲いたらさぞかし素敵でしょうね〜
さあいよいよお店に入りましょう〜
ずん ずん ずん(^o^)♪
入り口は建物の側面にあたる側にある。
玄関前には見事な形の良い枝垂れ桜があり,可愛い巣箱まで!
かっ かわいい、ときめく・・・
なんだかこの店の人の人柄が伝わるようで早くも感動・・・
しかし驚くのは全くもって早かった。
玄関を開けるとこんなスペースが。
その昔は普通に家の玄関として使われていたらしいスペース。
脇には古いスキーとブーツが飾られている。
ものすごいレトロさだが(これで滑るってどんな技!?)
この家にあると今も普通に使われているような、タイムスリップしたような気分になる。
正面の襖から中に入ってさあびっくり・・・
ええっ
えええええ!!?
(>_<) (>_<) (>_<)
私のカメラでは空間全体の素晴らしさを伝えきれないのが残念だが
予想を遥か超えた美しい空間に私はすっかり心を奪われてしまった。
いかにも機能的そうな、完璧に美しいキッチン。
客席スペースは高い吹き抜けになっていて
往時のままの造り付けの大きな家具や暖炉が目をひく。
窓から自然の光が入る美しいキッチンで
あちらで湯気を立てこちらで細かい料理をするシェフは
コック帽をバシッとかぶりいかにもフレンチのシェフらしい出で立ちだ。
こんな立派なお店のオーナーシェフって一体どんな人だろう・・・
と私は軽く緊張しかけたのだが
振り返って挨拶したシェフの笑顔の素朴さに拍子抜けしたような思いだった。
その短い挨拶とはにかんだ笑顔だけで人柄が伝わってきた。
私は、何も緊張しなくていい、本当の自然の中に来たような気持ちになり
すっかり嬉しくなってしまった。
見上げると吹き抜けの上の窓から見える景色は木のみ!森のみ!
信じられないくらい鮮やかで、まるで絵のよう。
キッチンと吹き抜けの客席(とシェフ)だけでびっくりしていた私だったが
なんと奥には畳の席もあった。
(左手前にあるのはマリンバ♪うふふ誰のものでしょう〜♪)
こっ この縁側の席も素敵すぎるんですけど!!♡
あの枝垂れ桜と巣箱を独占〜!
ここでお茶できたらどんなに素敵かしら〜〜〜!(≧∇≦)
もう何もかもに心を奪われてヘナヘナになっていたらなんと二階席もあった。
シェフのお母さんが「二階もどうぞ御覧下さいね・・」と案内してくれる。
フロア担当でありパン職人でもあるお母さんもまた、
素朴な、営業的でない思いやりが伝わる優しい方。
私は大切な野の花畑を踏み荒らさないようにと愛しむような気持ちで
ワクワクそっと、階段を登る。
うわ
うわわわわ
二階もこんなに素敵とは!!
1階だけであんなに素敵なのに、
なんという、なんという素敵なお店なんだろう・・
しかも今夜私達だけで貸切って・・何??
(夜は貸切での営業がメインらしいです・・
贅沢すぎるけど、そこが「杢」なのです・・)
そして、二階の秘密の扉を開けると一階の様子がこんなふうに・・
楽しすぎる♡
古くて美しい建物。
コトコトと音を立てて美味しいものを料理するシェフの姿。
そして私のこの空いたお腹!\(^o^)/
素晴らしい〜〜しあわせ〜〜〜
これから始まる時間が楽しみ!!
いよいよ始まるディナータイム。
お蕎麦が食べられるカフェとしてスタートしたこの「杢」では
普段はランチで「蕎麦御膳」という和のランチが食べられるらしい。
しかしフランス料理の修行をしてきたシェフなので
お客さん達の熱いリクエストが集まってしまい
予約のみでフレンチのコースも出すようになったらしい。
本来フレンチのコースの時はお蕎麦は食べられないのだが
(組み合わせとしておかしいですよね)
今回は東京から頭のおかしい蕎麦な人がやってくるということで
特別にフレンチコースの最後にお蕎麦を出してもらえることになっていた。
今回そうした全てのはからいをしてくださったマダムは
この店の開店当初からのファン。
実は私は初対面だったのだがこのマダムが超絶に素敵な方で。(>_<)
常に誰に対しても心を配りながら
天真爛漫な可愛らしい明るさで話している間じゅうずーっと楽しく
しかもとてもお綺麗という、同性ながら一目惚れしてしまいそうな方!
「杢」は素敵だわマダムとのお話は楽しいわで
ここは天国なのかしら〜〜〜
はにゃはにゃ・・・
「豆乳と蕎麦茶のムース」
キャー
しょっぱなからどストライクに私が好きそうなものが来てしまいました(≧∇≦)
実は豆乳を使った料理は大好きで自分でもよくするんですが
豆乳に加えて蕎麦茶なんて!!そんな大好きすぎるマタタビを入れられては
好きに決まっています・・・
蕎麦茶の香ばしさがたまらないとろんとしたムース。
塩分や味付けらしいものが潔いまでに一切ないのも豆の甘みが感じられていい。
本来はイクラがトッピングされるところを
アニサキスアレルギーがある私にはアレルギー用の対応をしていただき感謝。
見上げると先程下を覗いて喜んでいた秘密の扉が。
楽しいなあ〜
「フランス産ウズラのコンフィ」
手羽元、もも肉、胸肉、ささみ。
部位ごとに食べ比べるの大好き。
バリッと、ではなく上品で繊細な食感のウズラのコンフィ。
なんとパンはシェフのお母さんの手作り。
お母さんはケーキ教室の先生だったと聞いてなるほど〜と納得。
「芽キャベツのポタージュ カプチーノ仕立て」
春の香りが濃厚なバターの香りと絡み合い
ゴージャズだがさらっとしたポタージュ。
焦がしバターソースで飾られた海老のロースト。
こちらは本来イサキだったものを
アレルギー対応で海老にしていただきました。感謝(T_T)
菜の花、タラの芽、ヤーコンのフリットも美味しい。
生まれて初めてアレルギーになって以来、
この一年半でメキメキと肉食女子になりつつある私。
赤身好きなのでうれしい〜〜
と思ったら意外と脂がのっていて、でもそれが重くなくて美味しい。
旬の筍、アスパラもそれぞれに素晴らしい火の通り加減、香り。
そしてここで世界は一変します。
ついについに、あの方がやってきます・・
ああ うれしい
ときめく
「もりそば」!!
黒塗りの盆の内側は完全な和の世界。
フレンチなこのテーブルに意外と馴染んでいるのが不思議(^o^)
アンティークの器が「杢」らしくてとてもいい。
そしてなにより注目すべきはこの蕎麦肌!その色!
かっ 香りそう〜〜〜〜
ドッヒャー
絶句、超絶の香り高さ!!!
ズンと物理的に押してくるような、強烈にたくましく濃厚なかぐわしさと
甘〜〜〜い香りがムワァー!
福井産蕎麦らしいガッツリとした下から支えるようなたくましさが嬉しくて
思わず笑い声が漏れてしまう。
口に含むとはっきりくっきりとした輪郭線、
超微粉のぷるつるーとした肌にハッとさせられる。
そのぷるつると張ったような肌からは味わいは伝わってこないので
最初はさっぱりした味に感じるのだが噛みしめるとムニュンと柔らかく
そこから味わいと甘みがふんだんにいくらでもあふれでてくる。
こっ これが十割とは・・・すご過ぎる!
何より強くたくましく甘い香りがずーっと最高レベルで満ち続けているのが
たまらなく嬉しい。素晴らしい香り〜〜〜!(≧∇≦)/
汁はガツンと鰹が効いてずっしり甘め。
蕎麦湯とともにこの夜のしあわせに浸る。
そしてまだまだコースは終わっていません♡
「杢」から近い安曇川の果物
「アドベリー」のアイスとティラミス。
おまけで出して頂いた
「蕎麦茶アイス」
ちょっとシャーベットのようで重くないのが嬉しいアイス。
これがまた・・猫にマタタビ彩子にお蕎麦・・
蕎麦茶の香りってなんでこんなにすばらしいのでしょうね〜〜!
楽しいひとときは信じられないくらいあっという間に過ぎてしまい、
外に出ると闇。
駐車場まで歩くにも、本当の真っ暗闇!!!
シェフ自身による足下点灯サービスというのは初めて見た。(≧∇≦)
夜も明るい東京に慣れた私は
美しい闇に新鮮な感動を覚えつつ後ろを歩いていた。
墨色の山と山の空気、
ぽつりぽつりと聞こえるシェフの素朴な言葉に酔いながら
「ああ この店はいつまでも このままであって欲しい」。