2015年02月24日
兵庫・夙川「あんばい」
「関西には東京にはない美しさに驚かされるお蕎麦屋さんがある」
とは前にも書いたが、ここもまた。
阪急神戸線「夙川(しゅくがわ)」駅より徒歩2分。
マンションの1階にあるその空間は外観からはイメージが掴みづらい。
マンション自体のデザインがポップなので
そちらに目がいってしまうからかもしれない。
「石臼挽き 自家製粉 十割蕎麦」。
素朴で堂々とした文字が私を誘う。
店に入った瞬間から、この店の時間に染まる。
心に風が吹き抜け洗われるような空間。
限界まで照明が落とされているため店の奥は昼もほの暗いが
大きな窓の向こうの太陽の光が懐かしい情景のようにまぶしい。
BGMはジャズ・ヴォーカル。
こんな、およそお蕎麦屋さんらしくない雰囲気だが
メニューは冷たいお蕎麦、温かいお蕎麦、一品料理など
蕎麦屋の定番ものが一通り揃っている。
お酒は「加賀鳶」や限定で「春鹿」や「大山」。
その他そば焼酎「しなの」や芋焼酎「蔵の師魂」など。
お、期間限定でこんなのもありますね♪
あとでやってきたお客様方にはこの「限定ランチ」が大人気だったが
相変わらず蕎麦の香りを嗅ぎたい一心の蕎麦虫な私は・・
こうなりました↓↓(^ω^*)
「そばがき」
ドシンと厚みある器にダイナミックな盛り付け。
逆巻く波の如く、バシーンと練り上げられた迫力の姿!
このそばがきがなかなかユニーク。
見ての通りねっとりしているのだがぽふぽふ、ぽくぽくとした面白い食感がある。
また「あんばい」は十割蕎麦の店であるしこれはそばがきなのでそんなわけはないのだが
まるで二八蕎麦のようなほんわかのんびりしたような甘みと美味しさがある不思議なそばがき。
椀がきなのかも?
「せいろ」
蕎麦も厚みのある陶器に盛られてやってきた。
木のテーブルに置かれて響くゴトリという音がいい。
北海道産の十割蕎麦。
フレッシュで強い野生を感じる香り。
意外にもややきしめんに近いような強靭さがある固めの蕎麦で
口中で暴れる感じすらある。
それをもぐもぐ噛みしめさわやかな風味を味わうひととき。
(店内暗めにつき今回は美しい肌を撮りきれず残念無念 (;o;)(;o;)(;o;) )
「田舎」
おお〜
どっしり陶器に今度はぐっと黒っぽい蕎麦。
迫力ある景色だ。
うっわー・・・・
土佐和紙のような無数のホシ。
なんと美しい粗挽き肌だろう。
かすかな透明感のある肌を、店内奥のかすかな太陽光が透かしている。
先程のせいろと同じフレッシュな強い野生がそのままそこにあり
その上に甘皮のこうばしい黒い香りが加わった感じ。
その両方が穏やかでやさしい・・・と思っていたら
面白いことに段々それが変貌してきて
ほんのり白く上品な香り+香ばしい黒い香りになってきた!
強い野生が白い上品に変化した!
うーんお蕎麦って本当に面白いなあ〜
こちらは「せいろ」よりずっと軽い肌で、しかし食感はこちらもかため。
粗挽きのジャリ感がまた楽しい刺激だ。
つゆは鰹出汁のしっかり効いた甘め。
よく見ると蕎麦の器にもお箸を巻いていた和紙にも
「あんばい」のロゴが入っていて可愛い。
この店に流れる時間を眺めつつ、蕎麦湯。
時計を見るとまだ正午前。
(11時スタートというのも嬉しいところ♪)
私を吹き抜けた、美しい「あんばい」の風。
2014年11月03日
兵庫・みなと元町「手打ちそば処 卓」
旅先で出会った親切というのはとても嬉しいものだ。
神戸、元町の商店街近くで例によって蕎麦屋迷子になってしまった私。
生憎その裏通りには歩いている人が居なかったので
仕方なく目の前にあったおしゃれな美容室の扉を開け
「ごめんください・・すみません、このへんに卓(たく)というお蕎麦屋さんはありませんか?」
と声をかけた。
すると奥から出てきた金髪イケメンのお兄さんは感じ良く
「卓(たく)・・あっスグルですね!えっとスグルは〜」
と身軽に店の外まで出てきて指をさして説明してくれる。
あ、タクじゃなくてスグルだったんだ(^ω^*)
でもそのお兄さんに言われた付近に行ってもまだ見つからなかったので
今度は喫茶店の前に何故か立っていた店員さんに
「すみません・・このへんにスグルというお蕎麦屋さんは・・」
と訊くと
「スグル・・?あっタクですね!タクはねえ、そこの角を・・・」
となんと私と一緒に歩き出してほとんど店まで連れていってくれてしまう。
なんて皆さんご親切なのでしょう!!
神戸、元町の皆様にかんげき(>_<)♡
おかげさまでたどり着いた、「卓(たく)」。
来てみれば賑やかな元町商店街から路地を入ってすぐ。
実に簡単便利な立地であった。
小さな素朴な店を勝手に想像していた私にはちょっと予想外の外観。
割烹居酒屋か何かのような印象だ。
店に入るとますますその印象は強まり、まず眼に入るのはカウンター席。
厨房には何人ものスタッフが働き、ホールではパートのおばちゃま達がテキパキ働いている。
私はカウンター席の奥にあるテーブル席に通された。
カウンター付近とは仕切られていて落ち着いた空間が奥に隠れている感じ。
席に着くとまず蕎麦湯を持ってきてくれる。
この「まず蕎麦湯」に関して語ると長くなる上に私のおかしさがますます露見するので
遠慮したいところなのだが勢いに任せて書いてしまうと
非常に嬉しいようなもったいないようなちょっとイケナイことをしているような、
私の蕎麦心を千々にかき乱すものなのだ。
要は常に蕎麦に飢えて鼻をクンクンさせている犬のような私なので
まずその日一番に身体に入ってくる蕎麦の感激、
その瞬間をめっちゃめっちゃ楽しみにしているわけです。
ああああああ やっとあなたに会えた、という。
なのでその瞬間はやっぱり「もりそば」などの「蕎麦切り」であって欲しいんですね。
でも「そばがき」も大好きなので「そばがき」があったら蕎麦の前につい食べたくなっちゃうのですが
まあそれはそれで、他ならぬそばがきさまですから譲りますよその瞬間のよろこびを。
でも蕎麦湯で、ってのはねえ・・・ちょっともったいないような気がしちゃうんですよねえ〜・・
また蕎麦湯ってのはどうにも美味しくていやでも五臓六腑に染み渡っちゃうんですよ。
なにしろこちらは蕎麦成分を吸うためのスポンジのような状態で来ているわけで・・
という(長い)、その心乱す蕎麦湯を全身に行き渡らせつつ、メニューを眺めてみる。
「手打ちそば処 卓」のメニューはシンプルだが、
どんな楽しみ方にも対応してくれそうな感じの
絶対的メンバー、プラス、季節のメニュー。
うん、これはいいなあ〜
しかもメニューにはただ「田舎もりそば 860円」と書いてあるが
頼むと「白にしますか?それとも殻ごと挽いた黒にしますか?」と
訊いてくれる。キャー (≧∇≦)/♡
そ〜んなの両方いくに決まっているじゃないですか〜!
その前にコレもいきますよ〜
「そばがき」
うっわー
写真では伝わりにくいかもしれないが
びっくりするほど大きな、シンプルな鉢。
その真ん中に「ぽちょん」と鎮座するそばがきさまは
何だか寂しそうですらあった・・・が、
味は見た目の100倍美味しい・・ナニコレーー!!
ふーっと香る落ち着いた、しか野生もふんだんに感じる素晴らしいかぐわしさ。
スプーンで取るとねとーっとした食感なのだが口にふくんでびっくり。
微粉の肌はごくなめらかでふっくら超エアリーな食感が最高。
そのエアーの中から野生のかぐわしさと、蕎麦の美味しさをバランス良く全部持ったようなバランスの良い旨味が
ぽふぽふといくらでもあふれてくる感じ。
ウワ おいっしーーー!!
北海道、沼田の蕎麦粉とのとこだが
こんなにおいしい沼田は初めて食べたかも?
「田舎もりそば(白)」
正方形のズシッとした陶器の器にやさしげな表情の蕎麦が
ひろびろとひろがってやってきた。
たぐりあげると不思議な柔らかい野生がふわーっ。
これも「そばがき」同様沼田産ということは、この沼田さんとっても個性豊かなんですね〜
しかもその不思議な香りはだんだんと淡くなってしまい
最後は濃い蕎麦の旨味だけが際立ってくるという珍しいタイプ。
見た目は柔らかそうだが一本一本はパラリと独立し口中で感じる輪郭線はっきり。
肌は超なめらかでやわらかいコシが絶妙だ。
「田舎もりそば(黒)」
黒と言ったからには黒い。
極細打ちの粗挽き。
大地のような海のような生々しさをもったかぐわしさ。
しかしそれだけではなく渋い墨のような
ストイックなたくましさを合わせ持っているのが素晴らしい。
ジャリつぶ感もかなりジャリッつぶっっと激しく
味わいはじわーーーっと濃厚に滋味深い。
実に個性的、そして美味しい〜〜〜!
汁はサラリと甘み少なく、醤油の風味を感じる端正なもの。
同じ汁が「そばがき」についてきたがその時は全く違う汁に感じたのが不思議だ。
食後「どうぞ」とデザートにとても綺麗な葡萄が。
店を出ると
「本日は売り切れました」のひとことだけでもいいはずなのに
本日の営業への感謝の心と丁寧な挨拶を毎日掲げる姿に
ちょっと見入ってしまった。
手書きというところがまたいい。
旅先で出会った親切や心動かされたものは、深く心に残るものだ。
2014年11月02日
兵庫・新神戸「そば切り 山親爺」
関西のお蕎麦屋さんでは、
東京にはない美しさに驚かされることがある。
それは坂道の途中にあった。
外観はカフェか雑貨屋さんのような印象。
看板らしい看板は何もないが隠れ家のような感じではなく
中の様子は通りから全部見えている。
大きなガラス扉の窓辺に座って驚く。
こんな居心地のよい、美しい時間が待っていたとは。
先客はさりげなくお洒落でやけにかっこいい若い男性が1人ずつ離れて2人と、
姉妹のようなおばあちゃんが2人。
おばあちゃん達は壁際にちょんと並んで座っている。
何ですか何ですか、このニクイ程すんばらしい客層は!!!
外は霧雨。
無音の店内には店の奥さんの静かな接客の声だけが時折するだけ。
飾らず自然な奥さんの接客はこの店のイメージそのままだ。
メニューはテーブルにはなく
壁に大きくわかりやすく書いてあるだけというのもとてもいい。
「すじにくの煮込み」
煮肉好きゆえついつい頼んでしまう大好物。
牛すじ、こんにゃく、人参、大根。
「手挽き」
わわ わわわわ
このもんのすごいザックザクの風情・・・
と、鳥肌が・・・!
この、驚くほど個性的な肌。
水分をいっぱいにまとったみずみずしい粗挽き肌は
やや太打ちながら不思議な軽さがあるブワンとユニークな食感。
最初は水分のためか香りがほとんど感じられなかったが
食べ進むうちにちょっと個性的な野生の香りを放ち始めた。
強いて言えば水に近いイメージの香り・・
味は最後まで淡くさっぱりとしている。
ざらついた肌の舌触りは独特で、水泡のような小さな穴が無数にあるような感じ。
私の大好物の、ごく素朴なタイプの手作りこんにゃくにちょっと似ているかも?
みずみずしい軽さの中にジャリッつぶっという刺激が軽やかに混じっている。
稀有な個性!
本日の蕎麦は全て福井だそう。
「細切り」
木枠のせいろの風情も素晴らしく、
これまたたまらなく美しい眺め・・・
先程の「手挽き」の肌が強烈だっただけに
こちらはぐっとやさしい印象の粗挽き肌。
口に含むと、こちらも先程の「手挽き」同様水泡のようなざらつきがあり、
しかし「手挽き」よりも食感の密度が濃く味も香りも濃厚。
うわあ 美味しい・・・
落ち着いた石のようなイメージの静かなかぐわしさを追いかけるひととき。
「太切り」
出たー!
この窓辺の光に浮かぶシルエット、すごい迫力・・・
太打ちを注文した客には
「うどんより太い位ですが・・」
と奥さんがその都度断っている通り容赦ない太さ。
西のお蕎麦屋さんは太いと言ったら本気で太いことが多い。
角の立っていない、やさしい趣の極太。
この蕎麦もまた表面に水泡のようなざらつきがあるが
みずみずしいため舌触りはするんとしている。
噛み締めるとと先程の「細切り」と同様の
落ち着いた正統派の蕎麦粉のかぐわしさがさらにしっかり感じられ
噛めば噛むほど美味しい〜〜〜たまらない〜〜〜
例によってまたまた何もつけずに食べきってしまったが
気づけば傍らには奥さんが持ってきてくれていた
それぞれの蕎麦用の汁類があった。
太打ち用にたまり醤油。
手挽きには細かな雪塩。
普通の汁もたまり醤油使用で、
甘み少なくキリッと濃いめの味わいが美味しい。
蕎麦湯。
器はやちむんをはじめ温かみのある素敵なものばかり。
厨房横の扉の前には、この店にぴったりの雰囲気の縄のれん風の暖簾があった。
帰りがけに訊くとなんと奥さんが作ったという。
縄紐の間に白っぽい綺麗な石がランダムに縛ってある。
ナチュラルですごく素敵なアイディア。
センスのいい人だなあ〜
ひょいと顔を出した山親爺・・ではなく店主の笑顔も実に素朴で感じが良く
旅先で素敵な場所を見つけた喜びにしみじみ。
店を出ると雨上がりの坂道。
振り返ると看板のない店の時間は
なんでもなさそうに続いていた。
2014年11月01日
兵庫・兵庫「久庵」
兵庫駅から徒歩3分。
久庵という名前から勝手に純和風の渋い店をイメージしていたために
珈琲屋さんのような洋風の外観にちょっと面食らった。
店の外には
「自家製粉 十割そば」
「自家碾き そば店」
「そばの香りと甘さをお楽しみください」
など美味しい蕎麦への誇りが感じられる表示がいくつも。
細かいメニューも出してあり、
「田舎そば 手臼超粗挽き20メッシュ 生粉打ち十割」
なんてモノスゴイのもある。
私は開店時間ちょっと前に店の前に着いたのだが、
時間ちょうどに店主らしき人が暖簾を出した途端、
どこからともなく人がわらわら現れ2組も店に入っていくので驚いた。
ヒー!人気店はたいへんだ!
外観同様店内もおよそお蕎麦屋さんらしくはなく
カウンターの中では店主ともう一人女性が忙しげに働いている。
入り口には漫画や雑誌の棚、上に片倉さんと高橋さんの本。
BGMはジャズピアノだ。
私は是非とも前述の
「田舎そば 手臼超粗挽き20メッシュ 生粉打ち十割」
というのが食べたかったのだが、残念ながら土日限定とメニューに書いてある。
でも、でも、今日は祝日だし、もしかしたら・・?(*≧▽≦)♡と
万が一の期待を込めて聞いてみると
「書いてある通りです」
と言われてしまう。がーん。
き、訊き方が悪かったのかな、と思ったが、
隣のテーブルでも他の質問に同じ回答だったので
きっと忙しい中いろいろ訊く人が多過ぎるのだろう。
「そばがき」も食べたかったがこちらは「夜限定」とのことだったので
それも残念・・・
でもいいのです、今日は「せいろそば」だけ、
あなただけを見つめます、愛します!
「せいろそば」
メニューに「160グラム余」とあるとおり
三ッ山盛りのたっぷりお蕎麦。
美しく端正な細切り。
白く明るい肌は微粉のごくなめらかな舌触りで
くにゅんとやわらかい食感。
香りはごく淡く、味わいもさっぱり。
しかし食べ進むうち、くにゅん肌の中から
墨のような落ち着いた味わいが静かにあふれくるようになり、
こんなに香りも味も上品すぎる印象ながら
汁もつけずに(通常運転)一気に食べてしまう。
本日は茨城の蕎麦。
汁はスッキリ甘み少なく、鰹がしっっっかり効いている。
薬味の山葵もとてもいいもの。
最高級合鴨使用という「鴨せいろ」のつけ汁はこんな感じ。
せいろのつけ汁同様、鴨汁も鰹出汁がガツンと効いている。
最後は蕎麦湯でのんびり。
セット物や単品おにぎりに使われているという
「コシヒカリのそば茶ごはん」
というのもおいしそう〜〜♪( ´▽`)
2011年09月29日
兵庫・丹波市市島町「そばんち」
丹波市ののどかな田舎道ぞいに現わる、ちょっと不思議な建物。
映画のセットのようなレトロな看板に混じり、
「そばんち」と屋号があるが・・
うん?入り口は何処だろう。
どうやら店は右手にあるこの建物のようである。
入る前から何だか面白い店だぞ・・
店内に入ると「はーい」とどこからか声がするが姿は見えない。
まもなく店主が出てきて、広間に案内される。
窓いっぱいの、田園風景。
遠く重なる山の峰、平和にひろがる田んぼ。
なんと贅沢な眺めだろう。
「目の前は道路ですけど、ほとんど車通らないから気にならないんですよ〜」
と、嬉しげに語る店主。
定年後開業し、ここでの生活を楽しんでいるのが伝わってくる。
楽しんでいるどころではない。
このイタズラ心たっぷりの、楽しいメニューときたら!
お任せ「そば膳」「そば三昧」グルメ鉄道の旅!
店主は鉄道ファンなのか、コースメニューが
「鉄道すごろく」のようになっているのだ。
大真面目な顔で
丁寧にウキウキと説明してくれる店主が楽しくて、
何も食べないうちからこちらも大ニコニコ。
楽しみだなあ〜
どんな蕎麦鉄道の旅なんだろう!
まずスタートは
「揚げそば」
「平飼い鶏の有精卵 黄身の色が違います」
とすごろく、じゃなかったメニューにある
「出汁巻き」
この「出汁巻き」がですね・・
結論から申し上げますと、今までの人生で一番くらい、美味しかった!!
とにかく卵がものすごい。
卵の味がぎゅうううー!と濃くて、しかもしつこくない。
食べていて「美しい」と感じた卵なんて初めてだ。
焼かれた層の中にトローリと、濃厚なソースのような卵のうまみ。
ちょっとちょっと、出汁巻きの段階でここまで感激させられてしまうとは!
なぜか私の前に正座している店主さん・・
もしや只者ではないですね・・・?
お次は「ミステリー駅」停車。
「何が出るかお楽しみ?」とあるが、今日は
「梅そば」
すっきり、ひんやりとした出汁の中に
太い平打ち蕎麦。
梅としその風味がさわやかで、しそ好きの私には嬉しい美味しさ!
とは言え梅や柚子に敏感すぎる私。
すごく美味しい・・けど早くお蕎麦の味を感じたい・・
焦るな、自分!
お次の駅は店主の遊び心の最高峰。
「辛味大根ぶっかけ」
真ん中に黄緑色の大根と
ムラサキ色の大根がふたつ。
店主ががっしりした指で小皿を手にとり、
ムラサキ色の大根の一つにスダチをかける。
「いいですか見ててくださいよ〜写真撮らなくていいですか〜っ?♪」
あまりにウキウキ張り切っているのでこちらもつい
食いつかんばかりに見守る。
すると、
わぁー ムラサキが鮮やかなピンク色に!
楽しいー!
しかし「へへへー楽しいでしょっ」という笑顔で
こちらを向いて正座している店主はもっと楽しい。
私はたまらない。
「辛味大根ぶっかけ」はさほど辛くはなく
スダチの香りがふわぁ〜っと美味しい。
ここの汁はやや甘めなので辛味大根との相性がいいのかもしれない。
「そば掻き」
ここまでの粗さは珍しいほど、
限界まで粗く碾かれたザックザクの粒たち。
口に含むとフレッシュな緑の蕎麦風(!)が
ぱぁーっと体中を吹き抜けるようなかぐわしさ。
ザラザラのつぶつぶが、モチモチでつながっている感じの肌は
どこか白米のような甘さも感じ、
うーんこれは実にユニークな、素晴らしいそば掻きだ。
「水そば」
悪い癖だが、だいたい私は
「水そば」というものをバカにしがちである。
汁の味なしで食べさせるというのが新鮮な演出なのかも知れないが
もともと汁をつけない私には水の存在がただただ邪魔なだけである。
蕎麦肌が水でコーティングされて、
蕎麦の味が全く薄まって感じられてしまうのだ。
しかし「そばんち」の「水そば」で目が覚めた!
このたまらなくフレッシュな香り。
水の中に泳ぐ粗碾きの白い肌の美しさ。
何から何まで驚きの水そばである。
噛んでふくらむ、白いイメージの品のいい蕎麦の味わい、
しろくまあるいかぐわしさ・・・
ああ恍惚・・・
しかしコースはまだまだ続きます。
いったいどんだけ蕎麦を食べるんだ、と思われそうですが
一品一品の量は多くないのでお腹はまだまだ余裕でっす!
(これが肉料理ならとっくにドロップアウトしている私だが)
「粗碾盛りそば」
ああ あなたは。
夢のように、美しい。
カァー
「そば掻き」と同じ蕎麦を碾いただけあって
これまた吹き抜けるフレッシュな緑の蕎麦風!!
不思議なことに、同じ蕎麦でも
そば切りとなると何だか味わいにひねの要素が出ている。
はなやかでフレッシュなかぐわしさと、老成した雰囲気の渋い味わい。
ああもう 美味しいものにふりまわされて
何がなんだか・・・
終着駅は
「そば雑炊」
蕎麦の実というのは煮たり炊いたりした時が
一番蕎麦感が薄いと思う。
よって蕎麦雑炊を食べる時は普通の米雑炊を食べるときのように
心平らかに落ち着いて楽しむことができる。
鴨とネギの浮かんだ蕎麦の雑炊。
鴨の出汁がおいしいなあ。
食後の店主との話で偶然、コーヒーの話になったのだが
なんとここのコーヒーは「石臼コーヒーミル」なるもので
店主が手碾きしているとか。
そら飲まなあかん!
これがまた。
びっくりするほどおいしいのだから参ってしまう。
深くて、やわらかくて、コクがあって、甘い。
え〜〜
出汁巻きがあんっなに美味しくて
蕎麦もあんっなに美味しいのに
コーヒーまで美味しいんですかあ〜〜
自分のやっていることを自慢気にでもなく
ごく普通の態度で丁寧に説明してくれる店主は
なぜか自然に、ずっと私の前に正座している。
今は黙って、遠くの山を見ている。
なんて面白い、素敵な午後だろう。
そばんち、ばんざい!
10月の出演のお知らせ
.
2011年09月28日
兵庫・出石町「出石蕎麦 天通」
皿そばで有名な蕎麦のまち出石。
「皿そば」とは兵庫県出石地方の郷土蕎麦で
江戸時代、お国替えで信州上田市の仙石氏が連れてきた
蕎麦職人にはじまるといわれている。
出石焼の白磁の皿に分け入れられた蕎麦は5枚一組を一人前とし
卵、とろろ、ネギ、山葵、大根おろし等の薬味と共に食べる。
だいたい、800円とか900円で一人前が薬味付きで出てきて、
そこに一皿120~150円くらいで小皿を追加していくシステムだ。
「出石蕎麦 天通」はその出石にあって
皿そばがメインでない、ちょっと珍しいお店である。
蕎麦も皿そばの蕎麦だけでなく
「十割そば」
「田舎そば」
「粗挽きざる」
と3種類もあり、すべて自家製粉。
しかも「田舎そば」と「荒挽きざる」はなんと手挽き!
「そばがき」も手挽き!
ヒャ〜〜 もう嬉しくて嬉しくて
開店時間(午前10時)のはるか前に到着してしまいました。
だというのに
「中でどうぞ〜。すぐには、できないかもしれないけど〜」
と、どこまでものんびりと親切な店のおばちゃん。
ああ なんて素敵な朝なんだろう。
開け放した扉からのどかな街の音が聞こえる。
「十割そば」
見るからに「これは香りそうだ」と嬉しくなったが、
予想を超えた、ときめくほどのかぐわしさ!!
まろやかでクリーミー。
素晴らしい香り高さに思わずうっとりさせられる。
ああ、おいしい・・・来てよかった・・・
見た目以上に密度の濃い肌。
ねっとりとやわらかめで、これはなかなか足が早い蕎麦だ。
さっさと食べないとせっかくの香りが淡くなってくる感じがあるが
大丈夫、そう思ったときにはもう食べ終わってましたさ!
朝イチ、お蕎麦に飢えていたところにこの美味しさであるから
その吸い込みの良さと来たらない。
「田舎そば」
黒々、ざっくりとした肌に浮かぶ無数のホシ。
不定形にゆらめく、素朴な輪郭線。
口に含むとザラザラとした肌の凹凸が心地よく
何と言っても殻の香ばしさ、味わいの深さがたまらない。
甘みが全くないのがかえって香ばしさをさっぱりと際立たせる。
見た目はハードだが食感はやさしい、手挽きの「田舎そば」だ。
「粗挽きそば」
キター
これは・・・
あまりにも美味しそうで食べる前からもう胸がいっぱいである。
もう泣いてもいいかもしれない。
白っぽい肌に浮かぶ大小無数の陰影。
細かく震える手挽きのライン。
うわーどうしよう、これは絶対おいしい、美味しそうすぎる!
もはやパニックに近い状態で手繰り上げると、
そんな私をふわっと和ませるような、やさしく白い香り。
そしてそのしっとりとやさしくも粗い肌を噛み締めた時の、
味わいの美味しさときたら!!
味わいもまた白いイメージで
品のいい穀物のうまみがぎゅううううと閉じ込められている。
ああ おいしいー おいしいようー
来てよかったようー
おばちゃんありがとうー
随所に感じる美味しさへの徹底した追求、
なのに拍子抜けするほどのんびりとした居心地の良さ。
どこか仙台の「たまき庵」に通ずるユニークさを感じるなあ・・と
思ったらこんなところに共通点が。
蕎麦湯の湯桶に浮かべられた柚子・・・
店を出てもまだ10時半。
さぁて、今日はまだまだ楽しいんだー♪
10月の出演のお知らせ☆
2010年05月25日
兵庫・篠山「一会庵」
大空晴れ晴れ、心晴れ晴れ篠山の休日。
「付近にあまりにも何も無いため住所では表現しきれず
店の案内には緯度経度の表示がある」と聞いていたため
見つかるか不安であったが、何のことはない。
付近に何もなければ「遠くからでも丸見え」なのだ!
この堂々たる茅葺き屋根。
にほんの家は、美しい。
家の中はもちろん音楽も何もなく、
店の人の忙しく立ち働く音と、
蕎麦を待つ人の話し声のみ。
天井を抜いた吹き抜けの田舎家は広々として、
こんな場所ならお隣さんとぎゅっとくっついて
ひしめきあうのも何だか楽しいではないか。
囲炉裏席に通された私の蕎麦は、
囲炉裏の縁にごとりと置かれてのご対面となった。
いいですね〜、この眺め。
お隣さんは近所の病院の話などしております。
思わず頷いて話に入りそうになったり。
しかしここで事件が。
先程からマズイマズイと危惧はしていたのだが
まさに蕎麦がやってきたこの時、問題が深刻化してきたのだ。
私の席は囲炉裏の煙直撃の風下席。
煙すぎて蕎麦の香りどころではない。
ダメモトでひとたぐり、箸先の蕎麦の香りをよせると・・・
素晴らしい煙の香りである。
蕎麦の香りを寄せようにも、
私と蕎麦の間の空気は煙一色で染めつくされ
どうにもこうにも煙の香りしかしない。
「私は囲炉裏を食べに来たのでない」。
しかしそんなことでは私は負けない。
私の蕎麦愛を見くびってもらっては困る。
煙の流れを読みつつ、空気が澄んだ間隙を突いて嗅覚を尖らせ
蕎麦のまわりに小さく漂う香りだけを、寄せる!寄せてみせる!
ふんっっ
素晴らしい蕎麦の香りである。
新鮮な穀物のクリーミーさを感じるかぐわしさ。
備前焼の鉢の中、
緑がかった粗挽きの素朴な肌は鋭く美しく切り揃えられ
やや暗い田舎家の光の中にも
くっきりとした輪郭線を浮かび上がらせている。
硬めなので蕎麦と蕎麦との間には空間があり、
口に含んでもしばらくは口先で暴れるやんちゃな蕎麦。
噛みしめるとこれまたフレッシュで、なめらかで、まあるい味わい。
うーん、美味しいよう、来てよかったよう・・・
しかし全ては煙との戦いの中。
香りを楽しむのも味わうのも極めて困難な状況であったが
食べている間は決して鼻から息を吸わずに
息を吐くように「鼻から通して」香りを楽しむという
人生始めての技を開発!
歌手ですから、呼吸コントロールは割と自由自在なのであります。
この技を駆使すれば囲炉裏席でも
この蕎麦の素晴らしさを味わえたが
次回はできたら、テーブル席に座りたいかな〜
食後の蕎麦湯はいつものごとく蕎麦汁を
時々チビリと舌に乗せて楽しみながら。
椎茸の香りいっぱいの汁、
畑中の蕎麦屋らしい趣でこれも楽しい。
嗚呼素晴らしきかな畑の休日。