2016年07月27日
静岡・富士市「蕎麦切りこばやし」さようならの時
好きだったお蕎麦屋さんが閉店してしまうということ。
私にとってそれは悲しいとか寂しいとかという感情を超えている。
もちろん悲しくて寂しいのだが
その店が今まで紡いできたものの尊さを思うと
その時間が終わることもひとつの大きな「仕事」に思え、
身を正して受け止めたいような気持ちを覚えるのだ。
拙著「蕎麦こい日記」にも書いたことだが、なぜ私が蕎麦について書くのかといえば
動いていくものは私には止められないから、
お蕎麦屋さんの時間や味はどこにも残らず毎日流れていってしまうものだから、
それを欠片だけでもすくいあげて何かにそっと仕舞いたい。
そんな気持ちで書いているのだ。
この7月で営業を終える静岡の超名店「蕎麦切り こばやし」。
名店だけに普段から県外からのお客さんも多い店だが
このところは閉店の噂を聞きつけた長年のファンたちで連日開店前から大行列!
というわけで今日は開店1時間前を目指してやってきてしまいました(張り切りすぎ(≧∇≦))。
案の定開店時間前にはものすごい数の人が集まってしまい駐車場はいっぱい。
すごすぎる〜〜
待合スペースも人でいっぱいなのでみんな名前を書いて車に戻って待っているみたい。
張り切りすぎた私は一番にご案内いただきました(≧∇≦)/
心を澄ませて「蕎麦切り こばやし」のメニューを眺める。
これが最後と思うと感無量の思い・・・
感無量とは書いたがやはり眺めてしまうと一瞬でかき乱される我が煩悩。
だって見てくださいよ、お蕎麦だけで
「香味」
「風味」
「雅(曜日限定)」
「吟醸黒(曜日限定)」
「せいろ」
と5種類もあるんですよ!
この中から「ん〜、私はこれ。」と普通に一つを選べる優雅な人に私はなりたい。
4つあるなら4つ全部食べたい、5つあるなら5つ全部食べたい!!
これがラーメンだったらなんにも知らないし
入門編のをひとつ優雅に注文するんですがね・・(≧∇≦)
店員さんにびっくりされないようできるだけ優雅に(?)今日あるお蕎麦を全部注文して
できるだけ優雅にお蕎麦を待つ。(禁・過興奮)
「蕎麦切り こばやし」名物、テーブルの上の蕎麦粉のディスプレイを眺めつつ・・
き きた
「手挽き極粗挽き太打ち」の「香味」。
おお〜なんだか今日のは色が濃いめ!
うっはー・・・
何度見ても呆れるほどすごい、「蕎麦切り こばやし」の蕎麦肌。
特にこの「香味」は「蕎麦切り こばやし」の数ある蕎麦の中でも代表的な蕎麦であり
私の中でもこの店のイメージとなっている、他にはない美しい蕎麦だ。
太打ちの肌にごろごろと埋められた無数の大きな蕎麦粒子。
でありながら輪郭線はゆるやかな曲線を描き優しい印象だ。
今日のはかなり黄色味の強い肌なのでものすごい香りを想像したが
手繰り上げるとおおお〜っ 意外なほど白く美しい香り!
見た目の通りすこしぬめるような舌触りで
噛みしめると粗挽きの粒と粒がぎっちりしっかりつながった固めの食感。
味わいもすっきりと透明なイメージなのだが
モグモグ噛んでいると後味がいきなり熟成のようにムンと濃厚になってくるのが楽しい。
「手挽き粗挽き細打ち」の「風味」。
あああああ
なんという なんという その肌の超絶美。
見つめるほどに私は吸い込まれそうになる。
これが最後だなんて信じられない気持ちだ。
手繰り上げるとこちらも白く美しい香り、しかしその中に透き通るような野生を感じる。
しっかり固めの肌に大きな蕎麦粒子を無数にはらみ
ハラハラパラパラとした舌触り。
私はこの蕎麦を食べるといつも、ポコポコとたくさんの芽をつけた雪柳の枝が目に浮かぶ。
噛みしめるとこれまた透明感のある味わいがじわ〜とひろがるのにハッとさせられる。
「透明」と「じわ〜とした味わい」というのは自分の中では共存しない要素に思えるだけに
新鮮な感覚だ。
あああ おいしい・・
嬉しくてありがたくてしあわせすぎる・・・
早起きして来た甲斐があった(≧∇≦)!!
「挽きぐるみ 喉ごしのよい蕎麦 木・金・土曜日のみ」の「吟醸黒」。
透明感のある黒い肌をつやつやと輝かせてやってきた端整な極細打ち蕎麦。
手繰り上げると わあ〜 これまた面白い。
甘皮を挽きこんだ黒い蕎麦らしい黒い香りとたくましさが、美しい透明感の中にある。
珍しい感覚だが考えてみれば姿そのままの味なのだ。
つるつるムニムニ極細の食感で、姿も香りも味わいも黒く透き通っている・・・
「十割」
いやーーーん うれしい〜〜!!
粗挽きのイメージが強い「蕎麦切り こばやし」ではあるが
この微粉の「十割」おいしいんですよね〜〜!
極細,繊細な蕎麦をたぐれば
濃厚に香る、ザ・スタンダードな誠実な蕎麦のかぐわしさ。
なめらかで密な肌は私の大好物、中国の干豆腐にも似て
クリーミーで少しパキパキした印象。
味わいも濃厚で、食感のせいか味わいもちょっとミルキーな感じがしてきてしまう。
おいしい〜〜 おいしいよう〜〜・・・
もう今日はどんだけ蕎麦まみれなのかというほど食べまくっておりますが
ついに、スペシャルな蕎麦の登場なのです・・
じゃじゃじゃーん!!
「手挽き極粗挽き太打ち」の「香味(熟成)」。
このお蕎麦は店主自ら持ってきてくれました。
すごい、遠目にもわかる迫力の熟成感!!
うっわー これは面白い、すごい!
今日は食べた蕎麦すべてに共通する「蕎麦切り こばやしの透明感」に感嘆してきたが
熟成まで透明感があるとは。
正直言ってかなりキョーレツな熟成にも数限りなく出会ってきた私は
ちょっと熟成恐怖症気味なのだがこれはなんと美しい,澄んだ熟成なのだろう。
アルミ箔にくるまれて4日間7度で眠っていたというのが信じられない清澄さだ。
しかし熟成は熟成なので味わいにはものすごいパンチがあり
噛みしめるとビーフジャーキーをも思わせるようなものすごい旨みがあふれ出てくる。
見つめていくとちょっと味噌感も感じるほどなのに
でもどこまでもすっきり清澄なのが素晴らしい!!
「鴨せいろ」
最後に普通の「せいろ」を「鴨せいろ」にして頼んでみました。
これがまた凄かった・・・びっくりした!
二八の「せいろ」は美しく端正な極細切りでのびやか、なめらか。
でもなにより衝撃的だったのはここの「鴨汁」!!
・・・私、今までの「こばやし人生」を後悔しました。
ここでは沢山あるものすごいお蕎麦達に目移りして蕎麦のみに猛進してしまい、
こういう種物やつけ汁のものを頼んだことがなかったんです。
なのになのに、ナンデスカこの恐ろしいほど美味しい鴨汁はーーっ!!
なんというか、ただただ味付けの妙としか言いようがない。
出汁のうまみ、酸味、甘み、香辛料。
香りをかいだだけで「ウワこれは!」と惹きつけられ
その味のあまりの美味しさに大感激。
今までお蕎麦屋さんで食べてきた鴨汁の中でもベスト3にランクインさせたい
強烈な魅力だった。
うーーーん!!
「蕎麦切り こばやし」はこういう意味でも超名店だったんですね・・
全然知らず大損しておりました。
すごすぎる〜〜!!(>_<)
厨房では店主が千手観音のような早業で仕事しまくっている。
営業中も忙しいがこんなにたくさんのお蕎麦であるから
一体店主は毎朝何時に起きて仕込みをしているのか想像もつかない。
いつも遠くからその姿を眺めてきたが最後なので記念に一枚、
その背中を撮らせていただいた。
これだけの世界を作り沢山の人を喜ばせてきたその姿を忘れたくない。
名残惜しいが外の行列は長くなる一方なのでもう出なくてはならない。
この店を、去らなくてはならない。
長年お疲れ様でしたとか、悲しい寂しいとかよりも
ただただ、
「おいしかった!!」
忘れられない最高のお蕎麦を、ごちそうさまでした。
(帰り際の駐車場・・・住宅街の奥の奥なのにすごいっ)
2010年10月の「蕎麦切りこばやし」
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老神温泉の透き通った湯が肌に優しい露天でぼんやりと山々を緑を空気を身に心に感じながら
まだ梅雨も明けていないこの時期
遠くで物悲しげにヒグラシの鳴き声が・・
本当に物悲しげにヒグラシが・・
淋しいな・・・
もうあの芸術的粗挽きが食べられないなんて、、、、、
http://cr2c-tsuzuki.dreamlog.jp/archives/6840334.html
私も帰りに何十何百という蜩の声に埋め尽くされて染まりました。蜩は日本人の心の深い深いところに触れてくるとても日本らしい虫だと思います。子供の頃は夏の終わりに鳴いていた気がするけれどどうして最近は夏の入り口で鳴くのかなあ。夏の終わりの物悲しい声と思っていたのはイメージだけで私の勘違いだったのかなあ。と思っていたらきのこ狩りの時も秩父のお山は蜩山にでした。きのこ師匠は「虫も狂ってしまうほど地球が狂ってしまっている」と憂えていました。
aizさま
そうなんです〜〜・・ショックですよね・・
私は昼間しか行ったことがないので夜のレポ楽しく拝見しました。本当に美しいお蕎麦!
富士山手打ち蕎麦学会の特別顧問として元気に指導していただいています
富士宮教室とSBS学苑沼津校を拠点に、お蕎麦の美味しさ、楽しさを皆様に
伝授していただいています
>勝亦章司さん
>
>2017年から小林さんと蕎麦の講習会を開催しています
>富士山手打ち蕎麦学会の特別顧問として元気に指導していただいています
>富士宮教室とSBS学苑沼津校を拠点に、お蕎麦の美味しさ、楽しさを皆様に
>伝授していただいています