「東福寺」駅を降りるとまだ陽は十分に残っていた。
夜の予約時間に合わせてやってきたのだが
明るいうちに京都の街を歩けて嬉しい。
駅から東福寺とは逆方向に住宅街を歩いてきて
もう店に近いなと思ったところで真正面に立派な門に出くわして驚いた。

なんと、泉湧寺ではないですか!
(私はいつもこんな感じ・・
お蕎麦屋さんに行ったつもりが「アラこんなところに平等院が!」とか(* ̄∇ ̄*))
泉湧寺の門の直前で小道に入りさらに進むと「剣神社」も。

ああ なんて楽しい。
こんな美しい旧跡が住宅街のなかにひっそりとある。
前を歩いていた中学生の女の子がふっとモダンな新築の家に帰っていったりして
夕暮れ時の京都の日常のなかにいる喜びに浸る。
しかし地図は突然道をそれ、こんな面白い急坂を下れと言い出した。

え なんですかこの道は!
自動的に鬱蒼とした藤棚に吸い込まれていきます。
宮沢賢治の世界。

藤棚をくぐると、なんだか私が生まれた家を思い出すような緑の中の小さな坂道。

登りつめると

( °o°)
( °o°)
( °o°)
えええええええ
まぢですかコレですか!!!
さすがは昭和5年築の元迎賓館・・・・
日本家屋に洋館がくっついた昭和モダンなデザインが何とも優雅で
ただごとでない風格と気品に満ちている。
物語ならここで白ひげの執事のおじいさんが無表情に出てきそうだが
玄関に入ると明るくハキハキとした若い男性がにこやかに迎えてくれホッとする。
通された部屋は

( °o°)
すっっ
素敵すぎるんですけど!!!
私今日ふつ〜〜にのんびりお蕎麦屋さんにきたつもりだったんですけど!!
ええええ〜〜〜 こんな個室・・・
どうしましょう・・・うれしすぎる・・・・!!

窓からは見えるは今日の最後の陽に輝く木々の葉。
小鳥の声、カラスの声、葉ずれの音しかしない静寂。

・・・なに?
ここは天国ですか?
いきなり降りかかった嬉しすぎる展開にヘナヘナ・・・
テーブルには本日のメニューが。

いや〜〜〜ん
もうもうもうほんとに嬉しすぎてダメでゴンス!!(壊れた)
美味しそうすぎる上にこのメニューの体裁が素敵すぎて
早くもすんばらしいセンスを感じてわくわくが絶頂を越えて落ち着くので精一杯!!
人間のフリ大人のフリに努めるべし!!
鳴いちゃダメ!遠吠えは心の中で!
おお〜〜〜ん
おおお〜〜〜〜ん・・・
お酒のメニュー。

結構頑張って歩いてきて暑いのでこちらに。

わたくし、こんなに優雅なアサヒスーパードライ(瓶)は生まれて初めて見ました。
それもそのはず。
この江戸切子のグラスはなんとここで名前を言うのも憚られる
超・名工による最高級品!!
ひえぇぇぇ〜 そんなすごいもので飲んじゃっていいんですか〜?
美しさもさることながら持った手触りがなんともくっきりと、しかしもったりなめらか色っぽく、
うう〜〜〜ん ただただ すごすぎる・・・
「八寸」

きゃ〜〜〜
嬉しすぎる!叫ばない!飛びあがらない!私は大人!
遠吠えは心の中で・・・おお〜〜〜ん・・・
人参の冷たい和スープ
オクラのモロッコインゲンと揚新じゃがのお浸し
大葉とプチトマトの白和え
パプリカとはるさめの甘酢
蕎麦パンのカナッペ
芋餅のはちみつ漬木の実乗せ
蕎麦衣の寄せ揚げ
人参スープは私のお気に入りの横浜のイタリアンでも大好きなメニューなのだが
ここのは鰹出汁が美しく感じられる和仕立て。
えー!これはすごい。
すっきりさっぱり甘くなく、あまりの美味しさにビックリ。
寄せ揚げには三度豆、キャベツ、赤タマネギ、隠し味にスルメが使われているらしいのだが
この異様な美味しさはやっぱり蕎麦粉のなせる麻薬効果でしょうか。
香ばしさが素晴らしい〜〜
ちょっと甘めの白和えはねっとり濃厚。
大葉というのがニクイ美味しさ。
蕎麦パンのカナッペは反則過ぎます!!
たまごとベーコン、バターで朝ごはんに毎朝いっぱい食べてダメ人間になりたいほど美味しい。
う〜〜〜ん!
ここまでで十分にわかってしまいました・・・
ここの店主は美的センスも味のセンスも素晴らしい!!
これからがますます楽しみ・・・♡
温鉢
「竹田の太白おあげ、トマト、蒟蒻のクリームチーズ蕎麦餡仕立て」

あっつあつの炊合せに
エンドウ豆とクリームチーズを和えたソーズが掛かっている。
ボリューム感とみずみずしいヘルシーさのバランスが絶妙。
何よりアイディアの奇抜さを感じさせない自然で素朴な美味しさがすごい。
本当に面白いお店!!
小鉢
「更科変わりそば 彩り野菜のピクルス」

いろんな変わり蕎麦を見てきたが
こんな素敵なグラスに入った変わり蕎麦は初めてだ。

新たまねぎ、パプリカ、白きゅうり。
ここの野菜は山科・神田農園の無農薬野菜というだけあって本当に美味しい。
蕎麦は更科粉と片栗粉が混ぜてあるということで蕎麦の風味はほぼないが
むっちりとした食感で何よりゴマダレが反則すぎる。
こんなのおいしいに決まってる〜〜ずるい〜〜(≧∇≦)
この先まだまだお料理が出てくるのはわかっているがもっと食べたい、
煩悩をかき乱される美味しさ。
伏見・藤岡酒造「蒼空 純米 美山錦 火入れ 」

祖母が伏見出身のため嬉しくなって頼んだのだが
この江戸切子がまた凄すぎてのけぞる。
え〜〜〜 いいのかなあ〜〜
こんなので飲んだら余計美味しく感じて酔っ払っちゃうじゃないですか〜〜
(実際この蒼空は甘めだけれど余韻はスッキリ澄んで消えるので私でも飲みやすくて
小鳥にしては結構飲んでしまいました・・・うはははは)
途中で出された麻薬・・・じゃなくてシーズニングとしての蕎麦茶。

いや〜・・ダメですってばこんなの出しちゃ・・・(≧∇≦)
何を隠そう私は自宅で禁止にしたほど蕎麦茶が大好き。
こんなのかけたらなんでも香ばしくて夢のように美味しくなってしまいます。
焼き物
「豚肉の焼きしゃぶマリネ そばのガレットのサラダ仕立て」

レタス、きゅうり、赤玉ねぎを使いビネガードレッシングでサラダ仕立てにしてある。
豚肉さんの姿は見えないが下にちゃんと居ました。
焼きしゃぶというだけあってユニークなガッチリした質感で
クリームチーズを蕎麦衣で揚げたものが良いアクセントになっている。
日が暮れてきた。

小鳥やカラス達はもう巣に帰ったのか
今はもう竹林の葉ずれの音しかしない。
私は竹林に囲まれた家で葉ずれの音を聞いて育ったので
なんだかとても切なくてありがたい気持ちになる。
「手打ち二八そば」

江戸切子や清水焼など器のコレクションがすばらしい「澤正」だけに
蕎麦もただごとでない器に盛られてきた。
スリランカの塩も添えられている。

二八らしい香りをほわ〜とまとったなめらかな姿。
口に含むとつるんつるんの舌触りで、ムニュンムニュンとコシがすごい。
香りも味わいも二八らしいがとても上品な印象であるところがいい。
北海道黒松内町の蕎麦粉。
驚いたのはその蕎麦汁である。
そのままで少し舐めるとちょっと個性的なシャープさを感じたのだが
蕎麦湯で割ってみてビックリ。
「蕎麦汁は蕎麦湯で割った時に真価がわかる」と言われるが
ここの汁ほど突然美しく出汁の香りが際立ったのは記憶にない。
スパーン!と縦に突き抜けるような美しい昆布の香り。
驚いて思わず尋ねるとやはり。
店主が惚れ込んで仕入れているという、白口浜の献上昆布であった。
本物って語らずともバレてしまうのねえ〜としみじみ驚かされました(>_<)♡
ここで、メニューに無い一品。
そばがき「焼いていないもの」

ガラスのレンゲ?に乗った一口サイズが可愛らしくて楽しい。

みっしりミッチリ水分の少ない素朴な感じが
椀がきのような印象のそばがき。
力強い風味が一口の中にほわっと封じ込められている。
「そばがき(焼いてあるもの)」

そばがきを一口サイズで「焼いてないもの」「焼いてあるもの」
と二種も出すアイディア、センスに脱帽!!
小さけれどとっても手間がかかるのにそれでも形にするところが
職人というよりアーティストな感じで楽しすぎる。
焼いた方はお餅のようにもっちりむっちりして
香ばしさが素晴らしすぎて思わず「炭火焼ですか?」と訊いてしまったほど。
ガス火でもこの香ばしさって,蕎麦という穀物の凄さを思い知らされる。
砂糖醤油も添えられてくるので甘党の方はぜひそちらで♡
ご飯
「南高梅干の炊込そばご飯 赤出汁六甲味噌仕立て」

もう相当お腹いっぱいだったのでご飯食べきれないかも・・と思っていたが
(蕎麦ならいくらでもドンと来いなのにご飯となるといきなり尻込み(* ̄∇ ̄*))
可愛らしい上品な盛りでよかった〜

うわ
この御飯も美味しい〜〜
モッチリホワッとした炊き加減、南高梅の梅干とあられの風味。
でもやっぱり私には蕎麦が隠し入ってるからこんなに美味しいんだと思う・・・(^^)
菓子
「そばのこおり餅 そば短冊を添えて」

うわわわわ
さすがのこの姿!!
フランスの一流パティスリーのデセールと並べても引けを取らない
アートのような和のデセールの眺め。

寒天で漉し餡をくるんだ「こおり餅」。
とぅるんつるんと極上の食感と美しい姿。
さすが!!
・・・実は、意図的にここまで書かずにおりましたがこの「澤正」、
もともとは明治時代創業のお菓子屋さん、それも「そばボーロ」屋さんだったのです。
その三代目である現店主が始めた蕎麦会席の店がこの「そば茶寮 澤正」。
料理はどこでも修行していない、と言う店主だが
相当な知識とセンスを感じさせる独創的な料理は本当に心から美味しかった。
この建物、空間、器、料理、すべてに通じるセンスのすばらしさに酔わされたひととき。
しかもこんな優雅な店ながら
店主の人柄が明るく気取らずたいへん感じがいいところが素晴らしすぎる。
アハハハと明るい笑顔と機敏な雰囲気はこの迎賓館の厳かな空間よりも
太陽の下のテニスコートか何かの方が似合いそうな感じ。
最初に出てきたにこやかな若い男性はなんと四代目で
会話が楽しくてゲラゲラ笑って、肩肘張らずに優雅な「澤正」を満喫できた。

外に出ると、音のない闇。
庭木も灯篭も庭石も往時のままだけに
ズンと胸を押されるような迫力だ。

最後に、無粋ながら書きたいので書いてしまいますが・・・
元迎賓館で、こーーーーんな贅沢でおいしい夜を満喫したのに、
あのコース、ろ、ろくせんえんだったんですよ・・・!!
しかも京都で!
いいんですか!?
これは・・・みなさん行かないテはないですよ〜〜
京都にいらした際はぜひぜひ♡