2014年02月27日

京都・北山「じん六」


なぜ蕎麦のことばかり書くのか、と自分でも思う。

私は音楽について語るのは苦手だ。
子供の頃から歌うよろこびは歌うことだけであり
素晴らしい音楽に触れると自分の中がいっぱいになってしまうので
それらを言葉にしたいと思ったことはない。
私には難しすぎる。


しかしお蕎麦は日々私の前を過ぎて行く。
お蕎麦屋さんは毎日自分の追い求める「作品」を作り続け
世界を作り続け、それは一切形には残らない。


その日そのお蕎麦屋さんが作り上げた世界、
その時間そのお店に流れていた時間を
ほんの小さくても何かに残したい。

なくなってしまうお店、
変わって行くお店、
動いていくものは止められないけれど
それをなんとかつなぎとめたかった。



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こんなに早く、こんな日が来るなんて。

京都の名高き名店「じん六」が
この二月であの北山の美しい店での営業を終了する。

そう聞いて私は居ても立ってもいられず、自分のスケジュールを調べ
新幹線のチケットを取った。




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枝垂れ梅が、堂々たる美しい暖簾が胸を刺す。
この店は、ここにこうして居て欲しかった。

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外観は立派な日本家屋ながら、
店内は山小屋のようにひろびろと自然な空間。
建物の中なのに、深呼吸したいような気持ちになる。

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「そばがき」
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微粉ならではの、なめらかな肌。
選ばれし蕎麦ならではの、美しき緑。
この肌の中に「じん六」の宇宙がある。
それを知っているだけに見入らずにいられない。
それほどに、「じん六」の蕎麦粉は凄いのだ。


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口に含んで思わず目を閉じる。
とぅるんとなめらかな肌から
私の舌にギューーーー!!と押し込まれるように
ものすごい蕎麦の味わいが伝わってきたのだ。
だし汁でも入っているのか??と思えるほどの濃厚な味わい。
しかもそれだけ力強い穀物の味わいながら、
どこまでも澄んで清らかであるところがニク過ぎる。

うわぁーん 来てよかったよう〜 美味し過ぎるよう〜
なめらかふわとろで、
エアリーではなくムッチリな食感がまたたまらない・・

「じん六」が扱う福井大野在来の蕎麦の凄さ、ここに極まれり。
畑を見る目、蕎麦の実を見極める目、水を探求する目、
非凡なる厳しい感覚を持つ店主だからこそ到達した、この味。

このあとお蕎麦がなければこれだけいくつでも食べたい・・・






お蕎麦はいつもの、「蕎麦三昧」。
三種類の産地の異なるお蕎麦を食べられる
私にとっては最高のメニュー!!
今日は「茨城産」「京都産」「福井産」らしい。

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1枚目
「京都・深山」品種は信濃一号
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笊の上、ガラスの上の、涼やかな緑。
この蕎麦とこの庭の眺めも、これで最後なのか。


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冷水で締めすぎない肌からむわ〜と漂う、濃厚なかぐわしさ。
香りも味もこんなに濃いのにその印象はどこまでも美しく綺麗!
例えるなら、野の花の香りを寄せているような。
むっちりとふくよかな肌ながら噛み締めた食感はとても優しく
もう美味しくて美味しくてどんなブレーキをかけても
一緒にいられる時間は短すぎる。
おかしい。なんで私のお蕎麦ばっかりこんなに早くなくなるのだーー!





2枚目
「茨城・八千代町」品種は常陸秋そば
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一枚目よりやや細めで
やわらかそうに隙間なく重なっている。


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おおおっっ?
予想した香りよりもキュンと強い野性味のあるかぐわしさ。
しかし味わいはこれまた驚くほど澄んで
穀物の綺麗な旨味が舌の上にひろく、さーーーとひろがるのが目に見えるよう。
常陸秋そばらしさは全くないが全然別のすごい美味しさ!!
繊細な細切りで、やさしくぐったりと口中に寄り添ってくるが食感はもっちり。
もう美味しすぎて何がどうでもよくなってきた・・・





三枚目は田舎。
「福井・大野」品種は大野在来種

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陶器の皿上にぬるりぐったりと重なる、
みずみずしい肌。

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わっ わっ
これは!!
なんという濃厚な、美しいかぐわしさ!!
私の知る限りの福井・大野の蕎麦の美しい綺麗なところだけが
ギュウギュウと圧縮されたように濃厚に香っている!!
私の隅々までみっちりと満たされるような、洗われるような美しいかぐわしさ。
今日ここで食べた全てのものが「濃厚なのに澄んで美しい」という
同じ魅力に到達していたことにもあらためて驚かさせる。
ぬるりやわらか、みずみずしく重い肌は
噛み締めると思いの外しっかりとしたコシを持ち、
そこからムワァームワァーと濃厚な大野のかぐわしさが
いくらでも生まれ続ける。
ああああ美味しすぎてもう溶ける・・・




「じん六」が作り上げてきた、

この世界

この時間。

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流れゆくもの、動いていくものは止められないけれど



また次の季節に別の地で会えるまで

私の「じん六」は、ここにある。


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posted by aya at 01:14 | Comment(4) | TrackBack(0) | 関西の蕎麦>京都 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
誠に残念ですね。こんなお蕎麦屋さんが止めてしまわれるとは!私も一度伺ってみたかったです。再開の予定もないのでしょうか?
Posted by Tanaka Susumu at 2014年02月27日 21:30
開店数ヶ月の頃初めて伺った「じん六」
 時の移ろいの早いこと
  良い加減に色づき始めた店内
   やっと時の流れを感じるお店に染まりつつあったというのに
季節は流れる、人、時、全てを飲み込み

そろそろ「冬」を迎え 枯れ行く・・・
 でも、いずれ訪れるであろう「春」を夢見て

は〜〜やくこい は〜〜るよこい

でも、枯れ行く姿は寂しいものです
 とても良く撮れていますね 写真
伺えなかったけれど、伺った気分を味わえました
Posted by 而酔而老 at 2014年02月28日 17:29
そうそう 余談ですが、尾張屋と繋がってしまいますが。
あれだけ、そう、あれだけ蕎麦の、蕎麦そのものの風味、色、味・・こだわっているのに、以前より温蕎麦もありました(開店当初は無かったと記憶しておりますが)
要は、店主もお客も、どちらもが楽しい笑顔で過ごせる時間を共有できるのが一番じゃないかな
Posted by 而酔而老 at 2014年02月28日 23:05
Tanaka Susumuさま
私は素敵な展開を信じて待っております♪
お蕎麦はきっともっと美味しいですよ!


而酔而老さま
気分を味わえました、と言っていただき心から嬉しく、書いた甲斐がありました!きっと而酔而老さまは見届けに行きたかったと思うので・・
悲しみ過ぎず、ニコニコと、あのつぼみがひらくのを信じたいと思います(^^)
Posted by aya at 2014年03月03日 13:33
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