懐かしすぎて頭がグニャリ、ゆがみそうになる。

湘南にある中学高校に6年通っていたので
鎌倉で古くからある蕎麦屋は皆懐かしい気持ちなってしまうが
ここは佇まいが佇まいだけに
「今ここにいるのに思い出のような」店だ。

「クワァーーーーッッ!!」
思い出の隙間を漂泊する私が飛び上がったほどの奇声。
カウンターに座る常連のじいさんは痰が絡みやすいらしい。
何事もなかったように働く礼儀正しい店の人達。

じいさんの痰はその後も何度もからむ。
だんだん私もこの店の午後の時間に染まってくる。
今日は久々なので「とろろそば」にしてみた!
(老舗のメニューで「鶉」の文字を見ると弱いのだ)


電球に照らされた肌は不思議な色。
どこかクリーミーで緑ががかっている。
つなぎに小麦粉と卵を使っているせいかな?
たぐりあげるとむぅと濃厚な蕎麦の香りが嬉しい。たまらない。
パッキパキのかための輪郭線、密度の濃いすべらかな肌を噛みしめると
しっかりした歯ごたえの中から粉の甘みが溢れ出す。
お蕎麦が美味しくてどうしてもお蕎麦だけで食べるのがやめられず
「とろろにつけて食べたい、でもつけられない、次の一口で、次で」
というアホ過ぎる葛藤の末、結局最後までつけられなかった。
とろろと鶉はお蕎麦の後に単体で食べたのだが
これがまた何が違うのだかやたらと美味しい。
「ごちそう〜さま〜。うまかった。」
常連のじいさんがゆっくりと帰る。
「あいすみません〜!」
「お粗末さまでした〜!」
「毎度ありがとうございます〜!」
外は雪にならないのが不思議なほどの冷たい雨。
お腹の蕎麦湯が、湯たんぽを抱えているように暖かかった。