面白い駅があったものだ。
都電荒川線「庚申塚」駅。
電車からホームに降り立ったその足を、
そのままうっかり3歩5歩進めてしまうと
あら大変あんみつ屋に入ってしまう。

この「あんみつ屋」と「炭火焼屋」の所在地は「庚申塚駅ホーム内」。
改札のない無人駅につき電車を利用しなくてもお店には入れるのだ。
小さな階段を降りた駅前にあるものといえば
「箏曲教園」の看板のみ。
なんて面白い眺めだ!
とは言え不思議な世界はこちら側だけで
ホームの反対側は商店街になっている。
観光地化して賑やかな「巣鴨地蔵通り商店街」が
やっと落ち着き普通の商店街らしくなってきたあたりだ。

その商店街の八百屋さんの隣に、なにやらいい感じの構え。
「手打蕎麦」の四文字が、
私にはラス・ベガスの電飾くらいピカーッと輝いて見える。

カウンター7席のみの小さな店。
店内は木の壁の雰囲気があたたかく、
清潔な調理道具、趣味のいい器などが整然と並んでいるのが目に入り
居心地はすこぶるいい。
奥の席では地元のおばちゃんが二人、
「アタシね、ここのお蕎麦だーいすき」と
お昼のサービスセットを食べている。
ランチタイムのサービスセットは
「天ぷら盛り合わせ(4品)+二八そば」。
天ぷらはまず海老かキスかを選び、
残りの3品は目の前の笊から好きな野菜を選ぶ。

色鮮やかな野菜が美しく、何とも嬉しい演出。
お客さんが選ぶ時以外は
手拭いがかけられているのも良い風情。
目の前で揚げてくれた天ぷら。
ちょっとちょっと、特に手前のキス、おいしそうじゃあないですか?

「おいしーー!」
思わず声を上げてしまった。
バリッとした衣の中の、ふんわり〜としたキス。
かぼちゃ、玉ねぎ、茄子も
香ばしくバリバリの衣に美味しさを守られて
うわー、こりゃおいしい天ぷらですよ。
「綿実油で、揚げているんですよ」。
美味しい美味しいと喜んでいる私に、店主がのんびり教えてくれる。
カウンターのみの小さな店は店主のキャラクターが
店の一番の印象となりやすいが、
この店は前述の通り、実に居心地がいい。
「二八そば」

目の前で茹でられ、目の前で丁寧に美しく散らして盛られた蕎麦。

ふわぁっと香る二八らしい甘い香り。
口に含むとまた「ふわぁっ」。
軽くやさしい食感である。
そっと大切にかみしめ、ひろがる甘みと味わいを楽しむ。
壁の張り紙によると「 群馬県赤城村産 深山蕎麦」だそうだ。
「ね、おいしいでしょ?ここのお蕎麦おいしいんだから!」
おばちゃんが話しかけてくる。
おばちゃんだけに勢いがあり、これでおいしくなかったら辛いところだが
本当においしかったので私もニコニコ
「おいしかったですー!」。
暖簾を出ると、雨上がりの商店街。
巣鴨方向へ歩き出すと、面白いもの発見。
さすがは「巣鴨地蔵通り商店街」。
ラーメン屋さんらしいのだが・・・
ショー・・?
