
恵比寿駅からそう遠くないのに
辺りはすっかり静かな住宅街。
路地に面した佇まいがまず良い。
こじんまりとした店は奇を衒わぬ小慣れた印象、和の設い。
最近は堅牢な壁で覆われた、中の様子が全く伺えない店が増えているが
ここはシンプルな硝子戸で、通りからもその小さな世界が伺える。
私はさっぱりとしたこの空間がとても好きだ。


潔くしめられひんやり清洌な冷気を放つ「せいろ」。
これだけしめられながらも美しく淡く香り、
噛み締めた刹那ふくよかな、素晴らしくかぐわしい空気が
口中に生まれる。
つるつるすべらかな喉越しと王道のコシ。
美しい蕎麦だ。

田舎
たくましい見た目からの期待を裏切らぬ野性的な香り。
最初感じた香ばしさ、甘みはゆっくり食べるに連れて深まり
力強い蕎麦の風味を楽しめる。
箱の中に端整におさまった都会と田舎。
これはやはり、浅草の路地ではない。
恵比寿の駅前でもない。
「恵比寿の路地」によく似合う、洗練の蕎麦である。

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