山がすき。
スキーがだいすきな私には、
きっと夢のような場所なのだろうと思っていた。
たどり着いてみれば聞いていた通り、
店は竜王スキーパーク入口に位置する
「北志賀ホリデーインホテル」内にあった。

スキー場にあるホテルのメインレストランが、
自家製粉、手挽きまでする超・名店蕎麦屋。
聞いていたとはいえ、その事実を目の当たりにすると
胸がいっぱいになりすぎてほとんど「混乱」に近い状態。
行きたかったお蕎麦屋さんがスキー場のホテルにあるなんて、
そんなのアリなんだろうか、私が頭の中で作っちゃったんじゃないだろうか、
眼の前にある現実が受け止められない・・・

絨毯敷の店内は、広々と優雅な山のホテル風と、
和風の暖簾や飾りがあちこちにある家庭的な蕎麦屋風が混在している。
爽やかなクラシック音楽が高原の空気に響き、山々は青空に輝き
厨房からは蕎麦の水切りの音。
一体私は何処にいるのか。

店内にはこの店の目玉のひとつである「そばピッツァ」の石窯が。
開店直後というのに注文は既に殺到しているらしく
次々とピッツァが焼き上がっているようだ。
まずは運ばれてきたのは「蕎麦の実粥」。

赤い椀の中の可愛らしい粒たち。
米よりもつるりとした表面を持つ粒たちが
口の中をツブツブさらさらと過ぎてゆくのをつかまえ、そっと噛みしめる。
蕎麦の実の素朴さを損なうことのないシンプルな味つけに
これから先への期待は高まるばかりである。
本当に楽しみにしていた「手挽きそばがき」。
高原の窓辺で出会った、その姿。

これは・・・
見たこともないような、「生」感のある極粗挽きである。
生タマネギがざくざく入った焼く前のハンバーグのような、
すべて穀物というのが信じ難い姿。
表面がごく軽くあぶってあるのがまた憎い。
透明感のある美しい緑、
象牙のようにすべらかな白、
それらをつなぐ瑞々しい生成色・・
目をこらせば無数の蕎麦粒達がまだ生きたままそこにいるかのようだ。
箸先にぽってりと取り上げてさらに感激。
高地の野原のような爽やかな香り!
食感も通常のそばがきとはだいぶ違ったものである。
ふっくらでも、モチモチでも、ふわふわでもなく、
先程の蕎麦の実粥に似たツブサラ感のあるそばがき。
そのツブサラの間をつなげるモッチリと細かい粉。
噛みしめると内側から奥から、なんともまろやかな、
ミルクブレッドのような白いイメージの香りが生まれてくる。
実際に目に見える「緑と白と生成り色」が
口の中でもあまりにもはっきりと「見える」ことに驚く。
そして「生粉打ち蕎麦」。
私は、あなたに会いたかった。


もう、泣いてもいいですか。
この店に着いて以来我慢していたものが溢れそうで我慢できない。
私は山にいるのだ。
空気が綺麗で、向こうのお山が同じ高さに見えて、
おまけにここはスキー場なのだ。
その上何故あなたはそんなに美しく緑色にひろがっているのですか。
ひんやりした空気の中、しっかりしめられこんなにひんやりしているのに
なぜこんなにも美しく香ってくれるのですか。
柔和な表情に見えたその蕎麦は
口に含むと意外にも1本1本がはっきりとした輪郭をもっている。
さらしなのようにするするとした極細ゆえ、
噛みしめる刹那蕎麦と蕎麦がすべるような、
微かにシャクッとするような食感が感じられる。
気づくと、甘みや味わいはほとんどない。
それが物足りなさには全くなっておらず、「よく考えると」ほとんどない。
ただただ、この上もなく爽やかなかぐわしい香りが
この窓からあの大空にまではみ出すかのように満ちている。
口内上部、頭の中までかぐわしさで満たされ、
もうこの際私が大空にはみ出してもいい。
甘みや味わいといった味覚の底辺を支えるものが淡いぶん、
香りという「軽み」の部分だけが際限なく広がって感じられるのかもしれない。
ということはこれは新蕎麦でしょうか。
本当はそういうことはそんなに、どうでもいいのでございます。
もう只々、しあわせなのでございます。
またこの笊が、意外と深さがあるので見た目より量がたっぷりあるのが
ありがたいじゃあないですか、
うれしいじゃあないですか・・・

「生粉打ち蕎麦」でほとんど泣いている私の前に現れた、
この店の大人気メニュー「石窯焼きそばピッツァ」。
4種類の中から、一番スタンダートと思われる
「須賀川そばピッツァ」を選んだ。
「生地に自家製粉したそば粉をふんだんに使い
厳選の信州白味噌とチーズ、ねぎ・えのき・
そばの実をのせて石窯でカリッと焼き上げます」
と説明してあるものである。
この、話題の人気メニューに対峙したというのに
先程までと打って変わって温度の低い私を許して欲しい。
好き嫌いがはっきりしているというよりは
「好きなものが好き過ぎる」私、
ピッツァというものは嫌いではないが「愛情が希薄」である。
しかしここのピッツァは大変評判が高いので
きっと素晴らしいものなのだろう。
私が興味があるのはピッツァの表面ではなくその「裏側」である。

(ひっくりかえしてみた)

うおぉ〜〜〜〜
何ですかこのおいしそうさは美しさは!!
穀物の穀物らしい姿に滅法弱い私。
粗挽きの無数のつぶつぶがぎゅっと板状になり、
素朴な焦げ目のついたたまらぬ姿。
いびつな輪郭線を縁取る茶色のクラスト部分の
香ばしそうなことと言ったらない。
愛しい蕎麦粒さんたちに、こんなところでこんな姿で会うことが出来てまたまた感激。
ピッツァを食べるより裏側にしびれまくるあたり、
やっぱり私はちょっとばかり人と感覚がズレているのだろう。
できれば私は、具のない状態でこの生地だけ食べてみたい。
フルーティーなオリーブオイルなどつけて食べたらさぞ美味しいだろう。
山の香り、山の恵み、山の眺め。
「山の実」に、帰りたい。

ところが、ある方に紹介して7月中旬に行ってもらったら、まさかの低評価(汗)。
去年の作柄の所為とかかなぁ、と思っていましたが、記事を拝見して疑問が解けたような気がします。
そうか、あの方はきっと香りよりも甘みや味わいに美味しさを見い出すタイプなんだ、と。
勉強になりました先生。また教えてください。
冬にスキーがてら伺ってみたいんですけど、やってないんですよねぇ。大ジレンマ感じまくりです。
お蕎麦はいつ行っても同じ味に出会えるわけではないですから、難しいですよね。特に遠方だと「また来よう」が実現するのがかなり先になってしまいますし、人を紹介したときはこちらも悲しくなってしまいます。Z33さまが紹介された方の時も「たまたま」だったのかもしれません。でも山の実は店名からも分かる通りやはり「香り」を一番大切にしているのは確かですから、Z33の推理はきっと正しいですね!
あのロケーション、お店、空気・・美味しいものはより美味しく、不味いものは・・残念ながらあのお店には存在しない。
あのありそうだがまずお目にかかれない蕎麦掻きは正直初めての経験でした、あの見た目、食感、いたずらにモチモチでなく、さりとてムーズの如くでも無く、しかとした蕎麦の実の存在感、味、香り!!
お蕎麦もしかり、惜しむらくは事前に連絡いただければチョコッと裏工作したのにな・・・ そして白味噌ベースのピザも生地とソースの相性の良いこと(惜しむらくは、あそこの野菜類も抜群なのにな)冬場も蕎麦食べる算段はありますよ・・・
山の実では無酸素パックで保存しております。当然「新そば」もあれば「ヒネ」「ヒネヒネ」もあります。
事前に「ヒネもヒネた、而酔而老のようなやつを食べたい!!っ」と言っておけば、香りも、熟成された甘さも有るものが登場するかも・・・ その折には「開封して 数日おいてね・・」冬眠から目覚める勢いが・・・ ネッ!?