2010年10月14日

神楽坂「志ま平」


何時誰が行っても同じような時間が流れ、
マニュアル通りの同じ笑顔で
同じようにサービスしてもらえる。

そういった意味で現代人にとって
ファミリーレストランは
心安らげる場所なのかもしれない。

「個」として注目されない気楽さ。
心が触れ合わないからこそ、
心の中に立ち入られない安心感。

街道沿いは日本全国そんな店だらけとなってしまった昨今、
昔ながらの職人気質の頑固親父が
店の隅々まで目を光らせているような店は
存在そのものが貴重になってしまった。

随分昔の話だが、浅草の手拭いの老舗で、店に入っただけで
「そんなところに立ち止まるな」
と怒鳴られたことがある。
意地悪は嫌いだが頑固は可笑しい。


道を歩けば蕎麦屋だらけ、しかも名店だらけで悩ましい町、神楽坂。
その中でも一際の情緒を放つ佇まいの蕎麦屋が、「志ま平」だ。

RIMG2419.jpg


何だか入りにくい雰囲気だな、と感じた方、いい感覚をお持ちです。

引き戸を開けるとそこは江戸。
周りに流されない志を持った職人が、店を守っている。

いつもはこっそり蕎麦の写真を撮る私も、
ここでは流石にカメラを取り出す気もおきない。



ここには色々思い出があるが、
今日は「おせいろ」と「深山」が合わせて盛られた「二色せいろ」を。

二種の蕎麦を別々に茹でて盛る、その手際の良さに眼を見張る。

「おせいろ」は、韃靼に近いような、やや暗い黄緑色がかった極細。
一本一本の輪郭が明確に際立ち、繊細ながらシャキッとした姿である。

箸先にたぐるとフワっと、爽やかな蕎麦の香り。
微かに瓜系の野菜に似た香りを含んでいる。

一本一本がしっかりとしたコシを持っているため、
極細の束を噛みしめると
シャクシャクとした食感が楽しめる。
繊細でありながら凛とした印象の蕎麦だ。


「深山」は「おせいろ」との対比も鮮やかな、手びねりの陶器のような趣。
いびつに揺れる輪郭線を持つ肌には、赤や焦げ茶のホシが微かに浮かぶ。
香りは意外にも熟成。
太めだがコシは強くないのでモゴモゴ噛むことなくハラリと噛み切れ、
そこから熟成らしい濃い味わいと甘みが溢れてくる。


店主は頑固な一面もあるが
案外話好きでもあり笑顔は人懐こい。

今年は新蕎麦の出来がよく久々に嬉しいそうだ。


店を出ると先刻までの雨はほとんど上がり、
雨後の空気がひんやりと黒く澄んでいた。





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posted by aya at 06:56 | Comment(2) | TrackBack(0) | 東京の蕎麦>新宿区 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
初めまして。
こちらのお店はブログで知り合った方が知人とかで教えてもらったのですが、まだ伺えてません。
一茶庵で修行された方との事。
いつか伺いたいと思っています。
Posted by 25¢ at 2010年11月15日 08:55
25¢さま
こんにちは、はじめまして!
「志ま平」付近はお蕎麦屋さんだらけですから、はしごも楽しいですよ〜

Posted by aya at 2010年11月16日 06:34
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