2010年10月01日

静岡・富士市「蕎麦切り こばやし」


たどり着いてみれば、長年思いを寄せていた店は
住宅街の奥の、自然のままの緑の奥に
ひっそりと動物のように隠れていた。

RIMG2821.jpg



しかしいいものはどんなに隠れていても
放っておいてはもらえない。

朝11時、開店直後に入店すると店内はすでにほぼ満員。
最後にひとつ空いていた卓に何とか案内してもらえた。

テーブルには、この店で打ち分けている蕎麦粉のサンプルがおいてある。
「吟醸黒」「風味」「雅」「香味」。
それぞれのネイミングもワクワクを一層あおるではないか。
(板で出来たメニューと言いネイミングといい、ちょっと「たか志」を思い出すなあ♪)

RIMG2719.jpg


「吟醸黒」は土日祝のみ、
「雅」は日月火のみとのことで、
本日ある蕎麦は「風味」「雅」「香味」「せいろ」、
それとは別に壁に貼り出された「十割」もあった。

なんと5種類も、「蕎麦切り こばやし」の蕎麦が食べられるなんて!
しかもこんなにお腹空いてるなんて!
これ以上のしあわせがどこにあるだろうか・・
(否いろいろある。こばやしの隣に住むとか)

厨房は開店直後からてんてこ舞い。
店員の女性達と店主とのオーダーのやりとりも真剣勝負だ。


いつものように「順番はおまかせで」と頼んだら、
最初にやって来たのは「十割」であった。
感激の対面。

RIMG2733.jpg

RIMG2734.jpg

陶皿の上にこんもりと、完璧な美しさで盛られた蕎麦。
端正な輪郭が描く、流れるように鮮やかなラインに眼を見張る。
しっかりと、いかにも密度の濃そうな肌だ。

たぐり上げると、フワーッ!
目の覚めるようなかぐわしさ。
美しく清らかな、例えるなら上質のミルクのようなイメージ。
乳製品の香りがするわけではなく、「白くクリーミーなイメージの香り」なのだ。
噛みしめると、見た目以上の非常にしっかりとしたコシが楽しめる。
いやぁー、なんておいしい十割なのだろう。



RIMG2748.jpg

RIMG2758.jpg

2枚目は、「雅」。
な、なんという美しさ・・・・
自然光に透かし見たその肌の衝撃。
繊細に震えるライン、
灯篭にめぐる影のように無数に散りばめられたホシ。
そのあまりに儚く貴い、ビスクドールのような姿に
「この美しさを守らなければ」という保護本能まで働きそうである。
守るどころか頭から(?)食べてしまうのだが。

口に含むと、ひんやりザラザラ〜と口中を流れる心地よい感触。
香りも味わいも淡いのだが、
自分まで磨かれ透き通っていくかのような
清らかな食感である。


RIMG2761.jpg

RIMG2773.jpg

3枚目は「せいろ」。
十割よりもなめらか、やわらかそうな見た目・・・
と思ったら、意表を突かれてつるつるパッキパキの輪郭を持った
これまたすごいコシの蕎麦であった。
味わいは、これはやや熟成かな?
香りにおいても味わいにおいても、
熟成がかったムワッとした甘さが楽しめた。




さあいよいよこの時がやってきてしまいました。
私はあなたに会いたかったのです。
手挽き極粗挽き太打ちの「香味」!

RIMG2780.jpg

RIMG2780.jpg


ウワー・・・

想像以上の美しさに、完全白旗降参である。
平伏したい。でも食べたい。

もったりとふくよかな輪郭が描く、なめらかな曲線。
明るく薄いグレーの肌には純白のホシが無数に浮かび、
見入ればところどころがごく淡くピンク色を帯びている。
その「ピンクがかったグレー」の美しさと言ったらない。
藤田嗣治の「すばらしき乳白色」を思わせる色彩である。

この世に「香味」と私、二人きりとなって口に含めば
ああああ、よかった。
見た目も最高なら味も最高である。
一目惚れした人が自分の理想の人だったような喜び。
ふっくらとした歯ざわりの中からこぼれる、
穀物の品の良い香りと味わい。
あまりのときめきに、もう目はろくに開かず
ショボショボしながらウンウン頷きながら食べる私。
ああーしあわせだぁー



RIMG2780.jpg

RIMG2812.jpg

ラストは「風味」。
手挽き粗挽き細打ちの蕎麦である。

「香味」よりもほんの少し黄味がかった細打ち。
香りは「香味」とは微かに違う表情。
ふくよかで澄み切った味わいの「香味」と比べると
こちらの方が少しくせのある味わいである。
しかしなんといっても「風味」「香味」は手挽き。
それぞれの個性は
きっと日々微妙にうつっていくものなのだろう。
そう思うと、今度は吟醸黒が食べられる土日に来たい、
そばがきが食べられる夜にも来たい、と
今食べ終わったばかりなのにどうにも落ち着かない。


最後まで、全く存在すら忘れていた汁は
(いつもながらすみません・・・)
鰹の風味も濃厚な、こっくり個性的な甘さのもの。
駆け抜けた蕎麦時間に思いを馳せつつ、
蕎麦湯とともに楽しむひととき。



ああ、また会いに行きたい。

住宅街の奥、緑の奥の、あの蕎麦に。




RIMG2820.jpg




posted by aya at 12:44 | Comment(6) | TrackBack(0) | 東海の蕎麦>静岡 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ネッ・・
 でしょ・・

よもや
 ながいけ、居尻、たがた、つかさ庵、蕎丿字・・・

ここ自家製の薫製も美味しいよ(メニューに無いけどね・・)

同じく 志賀も 是非是非かも とくにピザに蕎麦掻きは
Posted by 而酔而老 at 2010年10月01日 16:56
おまけ

ここらへんも・・

石碾蕎麦 おもだか
どあひ
そば切り 遊玄

 ネッ
Posted by 而酔而老 at 2010年10月01日 17:29
昨日行ってきました。吟醸黒を目当てに、ハシゴの2軒目で。
さすがに土曜の昼12時半、満席の大繁盛でしたね。
それでも次々とそばをゆでてテキパキとオーダーをこなしていくご主人の動きが
カウンターで見ていて小気味良かったです。
>「吟醸黒」は土日祝のみ
品書きには木・金・土って書いてありましたです。
去年の11月の終わり頃に伺った時の品書きには、吟醸黒は「四月より新蕎麦まで」と書いてあって、
入れ替わりに十割の吟醸白が「新蕎麦より三月迄」でしたので、提供期間を変えたのかも知れませんね。
その吟醸黒は風味と同じくらいの太さのプルプルした食感の挽きぐるみでした。
次回は雅の曜日に合わせて訪ねてみたいです。
Posted by Z33 at 2010年10月17日 23:56
Z33さま
こんにちは!書き込みうれしいです。
ハシゴの2軒めに行かれたということで、まず1軒めが気になってたまりません(^o^;)
こばやしの厨房のテキパキぶりは目を見張りますよね〜
吟醸黒のスケジュールは変わるのですね。おしえていただいてありがとうございます。次回は是非、と思っています!


Posted by at 2010年10月18日 11:52
お名前ブランクですが多分ayaさん、
>まず1軒めが気になってたまりません
リンク先でつぶやいたとこが1軒目でした。
今どき当然と言えば当然ですが、ちゃんと食材に拘っているのがお店のWebページで見て取れたので
訪ねてみました。
Posted by Z33 at 2010年10月18日 12:50
Z33さま
ひゃー、ブログの主が名無しですみません!
1軒め、おいしそうですね〜〜!行ってみたいです。
静岡は「おいしい県」ですよね。行きたいところだらけです♪
Posted by aya at 2010年10月20日 15:42
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック