埼玉県浦和市「浦和」駅。
都心からは遠いイメージもあるかもしれないが
高崎線に乗ってしまえば上野からわずか18分である。
その浦和駅。
西口の駅前のデパート裏に
戦後の香りをすら残す「ナカギンザ通り」という
古いアーケード商店街がある。
昼なお暗い通路は夜ともなればさらにひっそり。
ぽつりぽつりと灯りをともす居酒屋などは
古き良き日本映画を思わせる情景だ。
その中で、新店ながらユニークなセンスと実力で
一際輝くお店がある。
「庵 浮雨(un peu)」。
あんぷう、お蕎麦屋さんである。
フレンチ出身の店主、店名の由来はフランス語で
塩少々、胡椒少々,というときの「少々」。
それに「浮くくらいゆっくりした雨」という漢字を当てたという辺りからも
この店主の自由な感性が伺えるではないか。
(学生時代「あやぷー」と呼ばれていた私には
個人的に親しみを感じてしまう名前でもあるのだ)
うら寂しいアーケードに掲げられた「un peu」の看板と和のしつらい。
他にはない、エスプリに富んだ外観は
まさにこの店そのものを表している。

神田「眠庵」で修行した店主だけに蕎麦はもちろん良いのだが
まずこの店の魅力としてあげられるのは
お酒好きにはたまらない日本酒の品揃え。
そしてそれをガッチリ支える魅力的なおつまみの数々である。
アルコールが余り強くない私ですら
これは飲まなきゃ始まらないでしょ!と思うほどの
「求酒力」を持った美味しいおつまみ。
それに合わせて選りすぐられ、しかも種類も豊富な日本酒が
非常にリーズナブルに楽しめてしまうのだから
これは行かなきゃソンソンの隠れ名店なのだ。
さて今日は・・
「鳥ハツとブロッコリーのガーリックマリネ」
「地鶏のササミと三つ葉の鳥わさ」
「小松菜とトマトのお浸し」
などなども大変気になるのだが
ここはやはり、どうしても
「眠庵」仕込みの「自家製豆腐」なのだ!

「庵 浮雨」の豆腐は「眠庵」よりさらに濃厚。
地元埼玉産の、その名も「借金なし」という大豆使用というのも面白い。
この「借金なし」、地元の農林振興センターによれば
「借金なしは、こくと甘みが豊富で美味しい在来大豆。
収量が多くこれを作っていれば借金をなすことができると言われていたのが
命名の由来という説がある。」
ということなのだが、本当に濃厚な味を持った大豆である。
それが「庵 浮雨」店主の手にかかり,今日などは豆腐というより
クリームチーズのような味わい。
お酒にあわせチビリチビリ、ということができる、
地産地消の名品なのだ。
そしてそして何よりも、この店において絶対にはずせないのは
燻製名人の店主の自慢(いや店主は自慢していない、したいのは私)、
その時々で種類も変わる楽しい燻製メニューの数々である。
本日できますのは
鴨、サーモン、カツオ、カンパチ、タラコ、うずらの卵。
単品でも頼めるし、人数に合わせて盛り合わせにも応じてくれるのが嬉しい限り。
今日は「できるだけちょこっとずつ」と我が儘を言ってみたのだが・・

いや〜〜〜〜
私が燻製好きということもありますがね。
この盛り合わせの楽しさは筆舌に尽くし難いものがありますよ。
お酒は強くないとは言え、こんなにも美味しいものには
日本酒がとんでもなく合っちゃって困っちゃう、ということを
某師匠だの、某師匠だのに教わってしまった私。
今日もちょびっと舐めつつ・・・
うははは・
うははははは・・・(昇太風)
これは・・・合いすぎではございませんでしょうか?
そして、本日のお蕎麦は「新潟」と「茨城」。
このお蕎麦がまた「庵 浮雨」らしい個性を放っている。

箱盛りの、ふたつの小山。
この2種が2種とも、平静で眺めろと言われてもどうにも無理な
胸打震わす眺めである。
まずは茨城山に近づいてみましょう。

もはや不整脈でも起こしそうなこの姿。
極粗挽きの肌に浮かぶ、白い陽炎のような淡いホシ、
まばらに見え隠れる橙色のホシ。
不規則に震える素朴な輪郭線。
ロミオのようにいつまでも賛美していたくなるのは
さっきの日本酒のせいなのかこのアーケードの魔法なのか。
箸先の香りはまるみを持った、おだやかながら芳しい蕎麦の香り。
しかし店主は
「この蕎麦、すごく変わってて、出したて,挽きたてなのに
もう熟成臭がするんですよ」
と言う。
へ、そうかい?とワクワクして、口に含み
香りを探って探って味わうと・・・
確かに。
底の方に流れる熟成のような力強い香りを見つけた。
しっとりした舌触りの中から生まれる、
甘みと、香ばしい味わいと、底に流れる熟成感。
奥深い、厚みのある味わいに恍惚のひとときである。
そして、お隣にありますのは新潟山でございます。
ううう・・
これはさらにすごい眺めとなっておりますよ・・・

見るからにしっっっとりとした、茨城よりもぐっと黒めのお蕎麦は
こちらも粗挽き。
肌の下にうごめくように淡い大小のホシが見え隠れしている。
箸先に手繰り上げて衝撃。
感じたことの無い香りがする!
これは・・・蕎麦なのか?というほど
胡椒でも無い、生姜でもない、どこかスパイシーな香りである。
完全な十割で、原材料は蕎麦のみなのだから
蕎麦という穀物の奥深さにあらためて驚かされる。
口に含むと思った通り、いやそれ以上のしっとり感。
もにゃもにゃとやわらかい夢のなかに
異国情緒すら感じる不思議な蕎麦の香りと
いわゆる蕎麦らしい滋味溢れる味わいが織りなされている。
衝撃を受けているのは私一人ではなかった。
今日はじめて、はるばると電車に乗ってきたというお隣の男性。
「カレークリームせいろ」のあまりの美味しさに
あまりおしゃべりな人ではないようなのにその感動を店員さんに伝えている。
そうこの店は、この店主ならではの楽しい種物のファンが非常に多く
ランチ時はかき揚げセットや種物目当ての客でいっぱいなのだ。
種物は
「カレークリームせいろ」
「花巻クリームせいろ」
「トマト蕎麦」
などなどいろいろ。
花巻クリームせいろはアサリの出汁がきいていて
そう、まさに青海苔入りクラムチャウダー!
そんなのおいしいに決まっている。
ちょっと試食させてもらったが
本当に本当にお腹が2つ欲しいと切望せずにいられない
美味しさであった。
ここは「眠庵」同様、蕎麦湯がまた大変に美味しい。
釜湯にわざわざ蕎麦粉を溶いて
ポタージュのようにしてくれるところが増えたのはうれしいのだが
ただ濃いだけ、のところも少なくはないの事実。
美味しい蕎麦湯は、やはり蕎麦から味わいが溶け出した釜湯が美味しくなくてはならないし
そこ溶いてくれる蕎麦粉の香りももちろん大切。
その両方が素晴らしいらしいここの蕎麦湯は
お風呂のように入ってしまいたいほど美味しすぎる。

扉を出れば、ふっ と寂しいナカギンザ通り。
しかしその暗さが、
今過ごした時間の楽しさ、
3回もお代わりした蕎麦湯で温められた自分のお腹を
照らし出すのだ。
安西水丸さんの銘言、迷言
「後悔すれど反省せず、酒呑まぬ人を信じない。」
ついつい照らし合わせてしまう我が人生
>某師匠だの、某師匠だのに教わってしまった私。
今日もちょびっと舐めつつ・・・
うははは・
うははははは・・・
良い師匠に囲まれて
幸せ者ですね
いつもながら、どうも話が逸れてしまうな
・・・後悔すれど反省せず・・・ っと言うことで・・
お酒で後悔したことは数えるほどもないですが、お蕎麦食べ過ぎて後悔したことは結構あります・・
あれはお蕎麦に失礼な感じもしてすごーくいやです(>_<)
大事にありがたく、ちょうど良く食べるぞ!とその時は反省します。
でもお酒はねえ〜、後悔するほど飲めば作った人も喜んでますよ♪