2010年08月09日
国分寺「きぬたや」(お蕎麦の写真)
「どうしてお蕎麦の写真を撮るの?」
隣席に偶然隣り合わせたTNKさんが私に聞いた。
土曜の夜のことである。
いい加減酔っ払っているようで、目をシバシバさせている。
適当に流すのが下手な私は大真面目に考える。
このブログのため?
否それだけではない。
ブログに載せているお店、使っている写真はごく一部だ。
ブログに載せもしないのに撮る、
その一番の理由は
「その時私がドキドキしているから」だろう。
会えて嬉しい、見入ればドキドキ。
その美しさに出会えた喜びを、
その内なるときめきを、
何か形に残したいと思うのは実に自然な感情ではないか。
と私も段々熱くなりかけて隣を見れば
酔っ払ったTNさんは自分でふった話のくせに既に全く聞いちゃいない。
目が泳いでいるところを見ると
どうやら「自身の今後の生き方」について真剣に考えている。
お酒とおつまみの配分だ。
そして
「ここの玉子焼き、うまいですよ」
とか言ってくる。
あのー!
聞かれたから、
私一生懸命考えて答えてたんですけどー!
そんなわけで、今日は国分寺「きぬたや」の蕎麦写真。
開店一番に入店し、
まず出されたのが板状の蕎麦刺。
今日は4種のうち、最初の2種が食感を大切に、
あとの2種が風味を大切に打ったそうである。
お湯に沈められた最初の2種のうち、
白っぽい方のじわっとした風味がとてもいい。
と思ったらあとの2種は湯から揚げられた状態でやってきた。
確かに、最初の2種よりこの2種の方が
風味も甘みも豊かで素晴らしい。
右にある方がより粗挽きで、味わいもより濃厚だ。
うんうん、血中蕎麦粉度、上がってきましたよ!
盛り上がってまいりましたよ!
そしてお待ちかねの蕎麦である。
実に1年ぶりの「きぬたや」の蕎麦。
相変わらず、吸い込まれそうに美しい。
店主の狙い通り、最初の2種は実際香りや味わいは淡い。
しかし、その食感はまさに「きぬたや」ここにありといった繊細さ。
壊れやすいものを扱う時の緊張感を覚えるような、
はかなく高貴な印象の輪郭線ながら
その肌は意外なほどの強靭さをもち、
無数の夢が口内を細かく撫でてゆく。
目を閉じれば私は、
小学校の教科書で見た「スイミー」の絵の中、海の底。
そして後半の2種である。
どちらも素晴らしいのだが、
特にこの最後の1枚の美しさは何なのだ!
あなたは神か。(蕎麦だ。)
出会った瞬間、持っていたものを全てバサバサバサーッと落とす、
古き良き少女漫画の「一目惚れ」のレベルである。
椅子に座り、何も手に持っていない私はどうやってこの一目惚れを表現できようか。
とりあえず椅子から落ちてみるか。
否食べて椅子から落ちそうになったことは何度もあるが
食べないうちから落ちたら食べられない。
食べなくちゃ。食べるぞ。と頭では信号を送っているのだが
何せ少女漫画の一目惚れであるから実行に移らない。
目に星とハートをキラキラ浮かべて
ぼーーーーーーーーーーっと阿呆のように見入る宇宙。
ああ何もできない。どうしていいかわからない。
これを恋と呼ぶのなら私はやはり人間じゃないのかも。
なんでもいいや、もう食べよう。エイ。
っはーーーーーーーー。
美しい・・・・
その香りは、その芸術品のように美しい肌の内側に、
無数にゆらめく蕎麦の粒子の奥に
静かに、そっと眠っていたかのようにひそめられていた。
箸先にたぐりあげ、香りを寄せようとも、
こちらに漂ってくるのは清らかな冷気のみ。
しかし口に含み、その肌を、歯ざわりを確かめるうちに
あまりにも「蕎麦そのまま」のフレッシュな香りが
体を吹き抜け、目が覚めるような思いがする。
蕎麦の一番よい香りは
蕎麦打ちの時に打つ人だけが楽しめるものと言われ、
私も初めて嗅がせてもらった時は
「えー知らなかった!!一人でこんないい思いしてたんだ!ズルイじゃないか!」
とお蕎麦屋さん不信に陥ったものだが
まさにあの香りがする。
あの、最初の一番貴い香りが、
この吸い込まれそうな宇宙の奥に
そっと閉じ込められている。
ね〜〜〜TNKさん、
今度は聞いてました?
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