好きでやっていることとは言え
お蕎麦屋さんにおいてはひたすら「せいろ」のみを選んでしまう、
そんな自分が呪わしい時もある。
お蕎麦屋さんのメニューに並ぶおいしそうな一品料理や種物は
かなりの確率で私を誘惑して止まないのだが、
何が残念と言って私の胃が宇宙のようには大きくないところである。
しかし他のものに目移りするのはメニューを見ている段階だけであって
いざお蕎麦を前にすれば
「やっぱりこれにしてよかった!」
と毎回しあわせを噛み締める。
それを毎日のように繰り返す、king of トリ頭の私である。
「むら木」も然り。
なんたって京都である。
和食のレベルは高さは言わずもがな。
ランチメニューにはおばんざいがつくセットがあったり
「イベリコ豚のつけそば 白味噌仕立て」
という美味しそうなメニューもあったりで
京都らしい強烈な誘惑にクラクラしたが
いやいやいやと浮気心を振り切っていつもの私らしいオーダーを。
そして目の前に置かれた瞬間またしあわせを噛み締めるのだ。
「やっぱりこれにしてよかった!」
それもそのはず、この眺めである。

「むら木」のお蕎麦は三種類、「二八ざる」「十割ざる」「田舎ざる」。
それを三枚分頼まずとも一食で全部楽しませてくれる「三色そば」は
どんなに嬉しい存在であることか。
少しず様子の違う三つの小山を眼下に眺むる気持ちは
ウキウキなんて表記では全く足りない。
ウキッ♪ ウキッ♪
猿入店お断りとは書いていなかったのが幸いである。



箸先でたぐりあげた刹那からムワァ〜と立ちのぼる
濃厚な熟成の香りの十割。
二八がまた素晴らしい。
「ああ来てよかった」と心から嬉しくなるような
美しく甘い香り。
口に含むと少し儚いような繊細な舌触りながら、
噛みしめるとふんわりと優しいコシがあり
やさしく大切に味わいたくなるような蕎麦である。
見た目から一番存在感が強いかなと予想した田舎が
箸先の香りもおとなしく
寡黙な田舎の男性のように目立たない。
しかし噛みしめると穀物の甘みが舌の上に広がり
その奥にかすかな野趣もひそめられていて
これまたゆっくりと大切に味わいたくなる蕎麦だ。
先程までお昼時で近所の常連さんや家族連れでいっぱいだったが
少し落ち着いた今はのんびりいい時間。
次は是非、おばんざいや他のお料理も食べたい!
と切望しつつも、きっとまた「三色そば」をお願いしては大喜び。
またその繰り返しなのだ。