鎌倉の手打ち蕎麦屋さんはほとんど廻っているので
今まで知らなかった店を見つけて胸が躍った。
10月初めの土曜日。
「鎌倉アルプス」とも呼ばれる天園ハイキングコースに行くことになり
歩き始める前に腹ごしらえするお蕎麦屋さんを探していたのだ。
地図を見ていたら、そのハイキングコース(緑の点線)の近くに
「草庵」という手打ち蕎麦屋を見つけた。

ハイキングコースを少しそれると今泉台という住宅地に抜けられるらしく
お蕎麦屋さんはその中の商店街にあるらしい。
どの駅からも遠そうな住宅街の中のお蕎麦屋さん・・・
面白そう!行ってみたい!
天園ハイキングコースは、
北鎌倉駅と鎌倉駅の間にある「建長寺」の境内に拝観料を払って入り、
その裏山にある「建長寺半僧坊」にお参りしつつ始まるという
ユニークなハイキングコース。
山の中腹にある「建長寺半僧坊」社殿のさらにその裏手にある、
鎌倉時代からあるんじゃないかと思うほど古い石段を上りまくり
見渡す鎌倉の山、海、真ん中に建長寺。

メインのハイキングコースは人気があり、
かなり人が入っているので道はとても歩きやすい。

しかし今泉台住宅街に抜ける道は、通る人が少ないためか
両側から草木が迫り、かなり狭いケモノ道のような状態。
草で手を斬りやすいのでグローブをしていてよかった。

(写真だと全然狭く写らず不満!ƪ(•̃͡ε•̃͡)∫ʃ)
登山と考えれば普通の道だが、これからお蕎麦屋さんに行くために
この草木をかき分けかき分け進んでいるかと思うと
我ながら自分の蕎麦熱が可笑しくなった。
メインコースを外れて10分ほどでケモノ道はフッと終わり、突然街に出た。
閑静な住宅街。
今泉台住宅街は昭和40年代に造成された住宅地だそうで
整った区画に大きな家がずらりと並んでいる。
約2100世帯、5140人が住んでいるらしい。
しかしなぜか人っ子一人歩いていないのが奇妙だ。
住宅街なのに人の気配が全くない。音もしない。
静かすぎるほどの住宅街を歩き
目的の商店街にたどり着いたのだが・・・

ここにも人の気配がない・・・
お蕎麦屋さんなんて全然ありそうにない・・・(>_<)
しかし上の写真をよく見てください。
実はなんと、この写真の中に、目指すお蕎麦屋さんがバッチリ写っているのです!
見つけられますか?
年月で言えばまあ数十年、
延べで言えば数千軒のお蕎麦屋さんを訪れてきた私であるが
その中でもかなり心に残る外観のお蕎麦屋さんであります!
どーん。

渋さもここまでくると芸術的である。
「拒絶」という二字が脳裏に点滅して見えるような外観。
とてもじゃないがウェルカムな雰囲気ではない。
「できれば誰にも入ってきてほしくない」、
そう言っているかのような面持ちに見える。
狙っても出来ないほどの究極の渋さ。
渋さって極まると「拒絶」に近くなるのだな、なんて思ったりする。
「草庵」という店名がぴったりすぎて実に味わい深い。
営業時間内のはずではあるのだが、
斜めから覗いて見ると暖簾も出ていない。

うーーーん
入っても、いいのかなあ???
しかしここで遠慮してすごすご帰るわけにはいかない。
私はここの手打ち蕎麦が食べたくてあのケモノ道を歩いてきたんです!
そしてここの手打ち蕎麦を食べて、元気にハイキングコースを歩きたいんです!
エーイ 勇気を出して入ってみよう!
こんにちは〜〜

あらま!
外観と打って変わって明るく小綺麗な店内に面食らう。
店の奥さんらしい人が出てきたが
なんだか不思議そうな顔をして何も言わないので
「お蕎麦屋さん、今やっていますか?」
と聞くと
「あ、はい・・・」
と控えめなお返事。
やっぱりちょっと不思議なお店かも? (≧∇≦)
メニューは実にマトモと言うか、とっても美味しそう。

歩く前の腹ごしらえですからしっかり食べたい気分。
「天ぷら盛り合わせ」と「せいろ」、お願いしまーす!
注文すると店の主人らしい人が静かに厨房に出てきて
奥さんと二人で準備を始めた。
時折話もしているようなのだが、とにかく驚くほど静かである。
静かな住宅街にある、静かな商店街のお蕎麦屋さんで
静かに静かに蕎麦を待つひととき。
長年いろんなお蕎麦屋さんを廻ってきたが
かなり新鮮で楽しい体験だった。
「天ぷら盛り合わせ」

想像の倍くらいのボリュームでやってきてビックリ!!
このひっそり静かな店のイメージと
「どーんとたっぷり食べてって〜!」というこの盛りっぷりのギャップが面白い。
エビ、ネギ、さつまいも、なす、イカ、しめじ、野菜のかき揚げなど。
衣はフカフカフワフワで家庭的な感じの天ぷら。
「せいろ」

完璧な美しさに、目を奪われる。
勝手に「拒絶」を感じてしまった外観からは想像もできなかった展開。
じつに端整で上品な眺めである。
お蕎麦そのものの美しさはもちろん、
器のひとつひとつも、手触りの良い上品なものばかり。
さすがは鎌倉の高級住宅街の中のお蕎麦屋さん!と思わずにいられなかった。
(入る前は仙人みたいなオジイサンがひなびた感じの古いザルに
超自然体なお蕎麦をドサッと盛るのを勝手に想像してたくせに (^^;) )

見入るほどに美しい蕎麦。
機械打ちかと見紛うほどに美しく切りそろえられた輪郭線。
大きな正方形のせいろの隅から隅までたっぷりと
美しい輪郭線がさざ波のように重なっている。
お蕎麦って盛り付けも職人技なんですよね〜
箸先から香りを寄せると
草のようなシャープな野生の香りが、おだやかに淡く香っている。
まさに「草庵」という店名のイメージぴったりの香りである。
口に含むとしなやかでやさしい舌触り、コシもやさしい感じ。
上品な二八らしい味わいがほんのりと広がり
ちょっと女性的な印象の、実に美味しいお蕎麦だ。
うーーん 本当に入る前は想像できなかった展開!!
またこのお店のもうひとつ、面白いポイントとしては
汁がかなり個性的です。
醤油をストレートに感じる辛さで酸味も強い。
試しにいつもやるようにそのまま舐めてみたら
なんとむせました!!しかも二回も。
ところがこの汁が、蕎麦つけて食べるとやたらに美味しい。
辛さも酸味も全く気にならず、旨味が凝縮した感じで
キュッと美味しいのだ。
天ぷらもお蕎麦も大変たっぷりした盛りだったので
すっかりお腹いっぱい。
食べたら動かなくっちゃね!
今泉台6丁目公園というのを探して
そこからまたハイキングコースに戻りましょう〜!
山歩きの前にお蕎麦って最高♡
しかも山歩きの後のこの夜も、お蕎麦を食べた私でした (^^;)