夕闇迫る草津の町。
温泉街のムード満点の観光地だけに
和風の立派な外観で観光客を引きつける店や宿屋が多いなか
かえって目立つこの外観。

「草津温泉バスターミナル」からすぐの便利な位置にある「大信」。
飾らず気取らず美味しいものを作り続ける、
町の食堂のようなお蕎麦屋さんだ。

店に入るとこの店の奥さんであるおばちゃんがドンと迎えてくれる。
毛糸のセーターの上に毛糸のチョッキを重ね着して
「いらっしゃい。」
と実にはっきり落ち着いて言う。
奥には修学旅行生らしい中学生男子三人というお蕎麦屋さんには珍しいお客さん。
うんうん、キミタチいいお店選んだねえ〜(≧∇≦)
メニューには
「かつ丼」
「ソースかつ丼」
「カレー丼」
など丼物も充実。

湯上りの一杯にぴったりなおつまみメニューもいろいろ♡

当然中学生くんたちはカレー丼とかかと思いきや注文は
「きつねそば」「鴨南そば」「山かけそば」。
ええええ 上品というかいい感じに枯れているというか
なかなかやりますねえ!!
そう言えばよく見るとどの子も品の良い子ばかりで話し声は適度に小さく
先にお蕎麦が来てしまった子は他の子のが来るまで食べずにじっと待っている。
傍らには家族へのお土産なのか紙袋がきれいに置いてある。
「舞茸天ぷら」

これはこの店に来たら絶対食べたい絶品メニュー♡
ど〜んと嬉しいこのボリューム、そしてバリッと美味しい!
「すくい豆腐」

こんもりまんまるのお豆腐。
甘さはあまりないさっぱりすっきり系なので
薬味をいっぱいかけて食べるのが美味しい。
お豆腐も薬味も体にいいものばかりだなあ〜
和食ってすごいなあ〜
「もりそば」


香りはごく淡い・・・と思いきや、爽やかな少し尖った野生の香りが
ほんのりと感じられてきた。
口中で直線的なラインを描くはっきりした舌触りで、歯ごたえもしっかりめ。
噛みしめるとそこから甘みとたくましい味わいがジワッと溢れるのが嬉しい。
19時頃には閉まってしまうこの店だが扉が開きまたお客さんが入ってきた。
と思ったらお客さんではなくおばちゃんのお友達だった。
おばちゃんと同年輩でふたりともあまり笑わないがそれだけ仲良しのようで
いそいそと奥の席へ行き嬉しげに話し込み始めた。
女子のおしゃべりはいくつになっても(^^)。
この街の日常を覗いているようで、こういうのを旅情というのだなあ、と思う。
外は雪が降っている。
おしゃべりに夢中に見えたおばちゃんだったが
中学生くん3人の様子にはすぐに気づいたらしく
「お茶かい。」
と立ち上がった。
「はいよ。」とお茶を汲み
「どうぞ〜。」とゆっくりと渡す。
その声は太く低く舞台女優の台詞のようにはっきりとしていて
だんだん私にはこの毛糸のチョッキにマスクしたおばちゃんが
めちゃくちゃかっこよく見えてきてしまった。
日本で最初のプリマドンナだった私の大叔母を思い出させるような、
飾らない堂々たる態度。
わかりやすい愛想はないが正直で自然な思いやりが感じられ
とても居心地が良かった。
貫禄ある存在感で店内をゆっくり歩き
「お客さんを守っているような」おばちゃんに対し
時折厨房の奥に見える店主はクルクルと動き回り美味しいものをたくさん作っている。
それもなんだかとてもいいバランスに見えた。
会計が済むと、私と一緒に入り口まで出てきてくれて
「気をつけてね。今日は、寒いから。」
ニコリともせず太い声ではっきりと言うおばちゃん。
店を出るとかなりの雪だったが、
暖かいのはお腹の蕎麦湯のせいだけではなかった。