傷ついた。
愛しきものがあった場所には
立派なマンションが無慈悲にドーンと建っていた。
あまりの印象の違いに、以前どこに店があったのかすぐには把握できなかった程だ。

北山通りのこの場所にあった「じん六」旧店舗。
ゆったりと天井の高い山の庵のような風情を、私は愛した。
http://ayakotakato.seesaa.net/article/389895153.htmlそれが昨年、建て替え工事をすることになり
4月からはこのビルの1階での営業を開始することになっている。

案内に従い、仮店舗営業中の「じん六」を訪れてみる。
もとの場所から北へ歩くこと約500m。
お洒落な雰囲気の北山通りから少し歩いただけで
いきなり畑はあるわお山はゆったり連なってるわ
たいへんにのどかな雰囲気となる。

市街中心部ではゆっくりできないタクシーの運転手さんのお昼寝スポットでもあるようだ。
こんなところにお店なんてあるのか、と不安になった頃に
張り紙にあったとおり「むら上」という割烹があった。
じん六は今ここを昼間だけ借りての仮店舗営業中なのだ。

なるほど、ダブルネームなこの眺め。
やや心細かったが、私が大好きなこの懐かしい暖簾に出会いホッとする。
いつ見ても本当にいい字だなあ〜
店内に入るともわぁーと生温かい湿度。
ネタケースもあり、まさに割烹とか寿司屋とかといった雰囲気だが
カウンター内では大きな蕎麦鍋がグラグラしている。


1年ぶりに会った店主は相変わらずの笑顔で
蕎麦屋でない場所で蕎麦を打ち、ゆでる難しさを語ってくれた。
それでもさすが、日本でも屈指のエキセントリックなまでの情熱と感性を持った店主であるから
工夫に工夫を凝らし
以前どおりどころか以前以上の進化をこの場所でも遂げているのだから
凄いとしか言いようがない。
メニューはほぼ旧店舗の時と同じ・・


いや、「鯖すし 一切れ150円」というのがあるのが
ピカーッと目を惹くではありませんか!
「むら上」の影響ではじめたプチメニューらしい。
鯖好きの私としては飛びついてオーダーしたいところなのだが
実は・・大の魚好きが祟って昨年なんと
アニサキスアレルギーデビューを果たしてしまった私・・・(TOT)
どうやら一生分のお魚をもう食べてしまったようです・・
はい、店主よりもさらにエキセントリックなのは私です(^^;;)
というわけでいつもと同じ「蕎麦三昧(産地の異なる三種の蕎麦)」、
その前にもちろん「そばがき」も、お願いしまーす♪♪♪

「そばがき」

あああああ
あなたに、会いたかった・・・
これがどんなに特別なものであるか、私はもう知っているのだ。
この胸のときめきをどうしたら!!うー!(一人で来ているのに吠え声が)

悶絶。盲目。無我夢中。
この、ありえないほど素晴らしいかぐわしさ。
フレッシュで、さわやかで、しかしたくましさも甘さも野生も全部ある。
私を埋め尽くして何も見えなくしてしまう恍惚天国の香り。
口に含むといきなり とろぉ〜ん!とるぅ〜ん!ふっくら〜〜〜!!と
これまたびっくりするほどすっばらしい極上のやわらか肌を持った香りの塊が飛び込んできて
噛みしめるとそこからグワァッと濃い蕎麦の旨みが口いっぱいに広がり、
次の刹那それは微塵もねっちょりすることなく潔くふるりと切れる。切れる!このニクさ!!
・・・もう私は完全にカウンター内の挙動不審者である。皆様見ないでください。
何か嗚咽のようなものが聞こえても知らんぷりしてください。
だってだって、私は今、このそばがきさまと二人きりで夢中で、何も構えないんです・・・
私の胃を考慮して小さめに作ってくれたというのに
食べ終わったらぐったりするほど興奮してしまった。
おそるべき「じん六」の「そばがき」。
その小さな塊の破壊力。
一枚目「茨城」

「蕎麦三昧」トップバッターは「茨城」。
これも少なめ盛りにしてくれてある。

美しく繊細に震えるその輪郭線。
まぶしく光を散らす粗挽き肌。
そこからむわぁーと漂う蕎麦のかぐわしさがただごとでない。
口に含むと驚くべき、生あたたかいほどの締めなさ加減で
口の中に「香り」という大きな塊が突っ込んできて
口を横方向にぎゅーんと広げられたような錯覚まで覚えた。
常陸秋そばの香りが最高潮に高まった爆弾のようなことになっている。
食感はむちゅーぐにゅーとやわらかくかなり個性的で、
噛みしめるとゆたかなゆたかなふっくら感。
ツルツルーッと食べる粋な江戸蕎麦とは対極にある
「じん六」ならではの蕎麦のかたち。
二枚目「北海道」

こちらもちょっぴり少なめで・・

見つめるほどにときめく繊細な粗挽き肌。
北海道らしい野生の香りをストレートに精製したような美しい香りがたまらない。
こちらもほとんどしめていない常温くらいの温度だが
超やわらかだった茨城よりは凛とした舌触りとコシを感じる。
キタワセと言われてみればキタワセなのだがこのストレートで澄んだ感じは
唯一無二のキタワセに思える。
三枚目「福井」

ギャー
なっ なんなんですかこの宇宙人みたいな青さは!
あまりにも青く写りすぎて変だったので少し色調補正したのにまだ青すぎる蕎麦星人。
そしてお気づきかもしれませんがここでいきなり蕎麦の量が増えています(^^;;)
「もしかして、もっと食べられそう?」とのありがたきお言葉に
「ハイ!」と元気よく返事した私(←ちなみに二軒目)。

(>_<)
(>_<)
(>_<)
たまらない・・・爆発的なこのかぐわしさ!!
このまま食べずに箸先だけでずーっと酔っていたい。
あなたに酔っていたい。でも食べたい。
もう何が何だか恍惚夢遊病者のようになって口に含むと
粗挽きの舌触りのあとにふっくらもっちりとした食感が迎えてくれる。
そこから広がるたくましく力強い在来種の味わい。
うううう
もう
どうなってもいい
おいしすぎる。

蕎麦湯がまたひとつのメニューに思えるほど
香り高く味わい深くたまらなく美味しい。
「茨城」「北海道」をブレンドしてどろ〜り濃厚に溶いてくれてあるのだから
美味しいに決まっている。
「じん六」の超個性的で鋭利な蕎麦汁を肴に
じっくり、至福の蕎麦湯酔い。
新店舗のオープンは早くて4月。
私は「じん六」旧店舗が最後と聞いては駆けつけ、
仮店舗と聞いては駆けつけ、
リニューアルオープンが今から気になってたまらないのだから、
「じん六」はああ忙しい(^^)