旅先で出会った親切というのはとても嬉しいものだ。
神戸、元町の商店街近くで例によって蕎麦屋迷子になってしまった私。
生憎その裏通りには歩いている人が居なかったので
仕方なく目の前にあったおしゃれな美容室の扉を開け
「ごめんください・・すみません、このへんに卓(たく)というお蕎麦屋さんはありませんか?」
と声をかけた。
すると奥から出てきた金髪イケメンのお兄さんは感じ良く
「卓(たく)・・あっスグルですね!えっとスグルは〜」
と身軽に店の外まで出てきて指をさして説明してくれる。
あ、タクじゃなくてスグルだったんだ(^ω^*)
でもそのお兄さんに言われた付近に行ってもまだ見つからなかったので
今度は喫茶店の前に何故か立っていた店員さんに
「すみません・・このへんにスグルというお蕎麦屋さんは・・」
と訊くと
「スグル・・?あっタクですね!タクはねえ、そこの角を・・・」
となんと私と一緒に歩き出してほとんど店まで連れていってくれてしまう。
なんて皆さんご親切なのでしょう!!
神戸、元町の皆様にかんげき(>_<)♡
おかげさまでたどり着いた、「卓(たく)」。

来てみれば賑やかな元町商店街から路地を入ってすぐ。
実に簡単便利な立地であった。
小さな素朴な店を勝手に想像していた私にはちょっと予想外の外観。
割烹居酒屋か何かのような印象だ。
店に入るとますますその印象は強まり、まず眼に入るのはカウンター席。
厨房には何人ものスタッフが働き、ホールではパートのおばちゃま達がテキパキ働いている。

私はカウンター席の奥にあるテーブル席に通された。
カウンター付近とは仕切られていて落ち着いた空間が奥に隠れている感じ。
席に着くとまず蕎麦湯を持ってきてくれる。

この「まず蕎麦湯」に関して語ると長くなる上に私のおかしさがますます露見するので
遠慮したいところなのだが勢いに任せて書いてしまうと
非常に嬉しいようなもったいないようなちょっとイケナイことをしているような、
私の蕎麦心を千々にかき乱すものなのだ。
要は常に蕎麦に飢えて鼻をクンクンさせている犬のような私なので
まずその日一番に身体に入ってくる蕎麦の感激、
その瞬間をめっちゃめっちゃ楽しみにしているわけです。
ああああああ やっとあなたに会えた、という。
なのでその瞬間はやっぱり「もりそば」などの「蕎麦切り」であって欲しいんですね。
でも「そばがき」も大好きなので「そばがき」があったら蕎麦の前につい食べたくなっちゃうのですが
まあそれはそれで、他ならぬそばがきさまですから譲りますよその瞬間のよろこびを。
でも蕎麦湯で、ってのはねえ・・・ちょっともったいないような気がしちゃうんですよねえ〜・・
また蕎麦湯ってのはどうにも美味しくていやでも五臓六腑に染み渡っちゃうんですよ。
なにしろこちらは蕎麦成分を吸うためのスポンジのような状態で来ているわけで・・
という(長い)、その心乱す蕎麦湯を全身に行き渡らせつつ、メニューを眺めてみる。
「手打ちそば処 卓」のメニューはシンプルだが、
どんな楽しみ方にも対応してくれそうな感じの
絶対的メンバー、プラス、季節のメニュー。



うん、これはいいなあ〜
しかもメニューにはただ「田舎もりそば 860円」と書いてあるが
頼むと「白にしますか?それとも殻ごと挽いた黒にしますか?」と
訊いてくれる。キャー (≧∇≦)/♡
そ〜んなの両方いくに決まっているじゃないですか〜!
その前にコレもいきますよ〜
「そばがき」

うっわー
写真では伝わりにくいかもしれないが
びっくりするほど大きな、シンプルな鉢。
その真ん中に「ぽちょん」と鎮座するそばがきさまは
何だか寂しそうですらあった・・・が、
味は見た目の100倍美味しい・・ナニコレーー!!

ふーっと香る落ち着いた、しか野生もふんだんに感じる素晴らしいかぐわしさ。
スプーンで取るとねとーっとした食感なのだが口にふくんでびっくり。
微粉の肌はごくなめらかでふっくら超エアリーな食感が最高。
そのエアーの中から野生のかぐわしさと、蕎麦の美味しさをバランス良く全部持ったようなバランスの良い旨味が
ぽふぽふといくらでもあふれてくる感じ。
ウワ おいっしーーー!!
北海道、沼田の蕎麦粉とのとこだが
こんなにおいしい沼田は初めて食べたかも?
「田舎もりそば(白)」

正方形のズシッとした陶器の器にやさしげな表情の蕎麦が
ひろびろとひろがってやってきた。

たぐりあげると不思議な柔らかい野生がふわーっ。
これも「そばがき」同様沼田産ということは、この沼田さんとっても個性豊かなんですね〜
しかもその不思議な香りはだんだんと淡くなってしまい
最後は濃い蕎麦の旨味だけが際立ってくるという珍しいタイプ。
見た目は柔らかそうだが一本一本はパラリと独立し口中で感じる輪郭線はっきり。
肌は超なめらかでやわらかいコシが絶妙だ。
「田舎もりそば(黒)」

黒と言ったからには黒い。
極細打ちの粗挽き。

大地のような海のような生々しさをもったかぐわしさ。
しかしそれだけではなく渋い墨のような
ストイックなたくましさを合わせ持っているのが素晴らしい。
ジャリつぶ感もかなりジャリッつぶっっと激しく
味わいはじわーーーっと濃厚に滋味深い。
実に個性的、そして美味しい〜〜〜!
汁はサラリと甘み少なく、醤油の風味を感じる端正なもの。
同じ汁が「そばがき」についてきたがその時は全く違う汁に感じたのが不思議だ。
食後「どうぞ」とデザートにとても綺麗な葡萄が。
店を出ると

「本日は売り切れました」のひとことだけでもいいはずなのに
本日の営業への感謝の心と丁寧な挨拶を毎日掲げる姿に
ちょっと見入ってしまった。
手書きというところがまたいい。
旅先で出会った親切や心動かされたものは、深く心に残るものだ。