久々の、「ひろ作」。

変わらぬ佇まい、店内の雰囲気にほっとする。
毎日寡黙に精緻な仕事をこなし続ける店主と、それを支える奥さん。
ミシュランで騒がれようと予約困難だろうと「ひろ作」には「ひろ作」の時間が変わらず流れている。
コトコトと、小さな古いカウンター内の店主の仕事の音。
この店の時間を楽しむ客達の静かな話し声。
店主の仕事ぶりは言わずもがなだが、
料理を出す時に一瞬だけ見せる晴れやかな笑顔と仕草にも毎度惚れ惚れさせれる。
熟練の余裕、とはこのことだ。
ここで大人の夜を過ごすのは私の長年の夢だが
やはりどうしても大人気の昼時になってしまう。
なにしろ2500円で「ひろ作」の味を楽しめてしまうのだから、
予約困難なのもうなずける。
「冷やし茶碗蒸し」と「ずいきのお浸し」

どちらも絶品!
ずいきの白の美しさに目を見張る。すだちの彩りと薫り。
さすが出汁が素晴らしい。
「冷やし茶碗蒸し」はジュレがけになっていて目にも涼やか。
中に潜む鶏肝の濃厚でありながら上品な旨味にノックアウトされる。
「イサキのお造り」

なんと、皮を炙った炙り刺身になっている。
これには参った。
ブリブリとした食感、炙ったことによる香り高さで最高の美味しさ。
「天ぷら 山科のししとう、緑竹、きす、骨煎餅」

天ぷらは目の前で揚げた揚げたてを。
上品な衣に包まれたししとうの新鮮なさっくり感と香り、緑竹のやさしい食感。
きすはふっくら味も濃く、揚げ方の良し悪しで
ここまで素材の美味しさが際立つものかとしみじみ。
また天汁が素晴らしい。
日頃は天ぷらは塩が好きな私だが、
それはお出汁の味が強過ぎて天ぷらの美味しさが溶けてしまうような印象を受けるから。
「ひろ作」の天汁はまさに天ぷらの美味しさを際立せる名脇役だ。
「穴子蒸し」

小さな器の中に穴子蒸しごはん。
臭みの全くない上質の穴子が、綺麗な味のまま蒸しあげられ素晴らしく美味しい。
ぷっくりツヤツヤの餅米がまたよく合う。
そして、懐かしい「ひろ作」の蕎麦。

ああ これだ。
ツヤツヤピカピカの極細、白く優しい姿。

ふっとただよう上品な白い香り。
食感は前よりいっそう優しくなったようで
ピカピカの見た目に反してフニャッとしているが、
極細の輪郭線の繊細な心地よさ、ツルツルすぎない素朴な歯触りがとてもいい。
しかもここは汁がさすがの美味しさ。
ここでばかりは、私は汁もつけずに蕎麦だけズルズル、なんてことはせず
その貴い汁につけて食べたくなる。

蕎麦湯も、いつもは汁で割らずに「蕎麦湯をゴクリ、汁を時々チロリ」と
塩を舐めつつお酒を飲む呑兵衛みたいに別々に、延々と飲んでいるのだが
ここでは迷わず割ってみた。
汁の良し悪しは蕎麦湯で割ると歴然とするもの。
少し残ったネギの香りもよく、このために作られた椀物の汁のように完璧な美味しさだ。
デザートは葛の黒蜜がけ。

何(十)年経っても変わらないでいてくれることのありがたさ。
今年の、私の「ひろ作」の思い出。