生暖かい風が関東を吹き抜けた2月の夜。

一日だけぽっかりとやってきた4月並の陽気。
異常気象の違和感を風の激しさが余計に煽り、何となく胸騒ぎがする。
「凡味 そばきり」の風情も、迷い込んだ物語の中のよう。


床の間の左脇に炉縁が切られた茶室に通される。

躙口。

硝子戸を揺らす風に誘われて窓を開けると、
手入れの行き届いた庭がより美しく見えた。

開けたまま、あたたかな夜の気配と店の音を聴く。
「ごまどうふ」

濃厚な胡麻の風味。ねとっぷるっとした食感。
なんといってもこの潔いほどの「甘くなさ」は凄い。
醤油の濃い汁と葱でキリッと食べる硬派なごまどうふ。(食感は硬くないですよ(^o^))
これは「日本酒キュッ、ごまどうふチョビッ」
が、似合うでしょうね〜〜
「そばがき」

運ばれてきただけで周囲を染める華やかな柚の香り。

ふわとろエアリー系ではなく輪郭はっきり、
もっちりとしたはんぺんのような食感。
噛んでいると渋い蕎麦の滋味が感じられてきて嬉しい。
蕎麦の香りだけを求めて生きている虫のような私には
柚子がちょっと華やかすぎたが、ここの濃い汁には確かに柚子がよく合う。
どれほどの鰹さんと醤油さんが
この徳利の中に凝縮されているのかと思うほどの濃い旨味なのだ。
「田舎そば」

猪口も、徳利も、笊も、蕎麦も、なにもかもが完璧な眺め!
美しいなあぁ〜〜〜〜

生々しいまでのたくましさを感じる、ずっしりとした香り。
食感もズシッと密だが、ツルッぬるっとしているので食べにくさは全くなく
弾むようなコシにつられてどんどん食べてしまう。
なんといってもそのふっくら豊かなコシの中に感じるジャリ感が素晴らしい。
殊更でなく、微かにジャリッと粗さをのぞかせるのがニクイ。
味わいはほんのり優しいお寺みたいな。(←誰も付いていかれない表現)
「ざるそば」

ワーーーこれまた、
どうにもこうにもおいしそうな粗挽き美肌!

震える輪郭線の中にゆらめくしろい陽炎。
散りばめられた焦げ茶のホシたち。
心ときめかずにはいられない、最高の眺めだ。
肌の表面は粗いが食感はつるりとしていて、
強靭なコシの中のジャリ感が田舎よりも更にゴージャス!
だからといってやたらめったらな感じでなく、その絶妙さに酔わされる。
先程の「田舎そば」と同じ生々しいまでのたくましさに加え、
こちらには渋い蕎麦のかぐわしさも感じられて嬉しい。
今日は福井の蕎麦だそう。
「白雪そば」

やや暗い茶室の中、そこだけ明るく輝くような、
まさに雪の白さ。

つるっつるの密なる美肌。
見た目よりも重量感があり、かみしめきれないほどの強靭なコシが凄い。
香りはごく淡かったが、それを見つけて追いかけ追いかけしているうちに
白雪らしい粉の甘い香りがずんずん深まってきて、
ああ〜おいしい!と思ったときにはもうなくなっちゃった・・・
どうして、私のお蕎麦はすぐにどこかに消えてしまうのでしょう。
人のお蕎麦はなかなかなくならないのに(^^;)
風の音を聴きながら至福の蕎麦湯タイムに身を委ねていると
なにやら私の心を波立てるものがある。
どこからかめっちゃめちゃ美味しそうな匂いがしてくるんですけど・・・
鴨焼きのいい香り!
建物の外に出たときは換気ダクトの関係かそれは最高濃度で感じられ、
その香りだけでご飯が食べられらそうなほどのいい香りだった。
あんなに良い香りの「鴨焼き」はなかなかないぞ・・
次回はぜったい「鴨焼き」食べるんだ!(^o^)
.