2016年12月01日

滋賀・坂本「本家 鶴喜そば 本店」


比叡山麓の美しき町坂本。
私がこの町をこんなに愛すことになろうとはかつては思いもしなかった。

「坂本は世界で一番素晴らしい町」というのは
坂本で生まれ育ち長くヨーロッパにも暮らした人の故郷愛あふれる言葉だが
他所者の私から見ても坂本は本当に美しい町だ。

昔も今も宗教心の希薄な私が比叡山とお山の人々に魅せられ
もう何年経っただろう。
京都から電車を乗り継ぎ坂本駅に着くと
全身が洗い清められるような空気にまず感激させられる。
「お蕎麦の香りより好きな香りはフィトンチッドだけ」である私は
その清澄な空気を宝物のように感じる。
またここに来られた喜びでいっぱいになる。

その坂本にある
なんと創業二百九十年という気の遠くなるほどの超有名老舗蕎麦屋。

もはや知らぬ者はいない「鶴喜そば」の堂々たる外観。

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土地柄と余りにも有名な大店であることで「観光地蕎麦屋」という印象が強いが
この存在はまさに国の宝だと思う。
比叡山延暦寺の門前町として栄えたこの地で人々に290年も愛されてきた手打ち蕎麦。
その文化の貴さ、店の存在の貴さ、建物の美しさに
私は雨の中手を合わせたくなる。
(ただでさえ宗教心が希薄なくせに比叡山に来ているのに
そこで蕎麦屋に手を合わせていたら本当におかしい(* ̄∇ ̄*))


築130年の入母屋造の建物は国の登録有形文化財に指定されている。

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ちなみに「鶴喜そば」という店はこの店の他に
滋賀・京都で何店舗も展開されているが
そちらは暖簾分けされた「比叡山麓 鶴喜そば」という機械打ちのお蕎麦屋さんであり
この「本家 鶴喜そば 本店」とは別のお店である。




外に張り出されたお品書き。

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ガラガラと木戸を開けると正面に二階への階段がある。
その勾配の急さがこの建物の古さを物語っている。

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門前町の有名店だけに紅葉のシーズンや昼時は行列が途絶えないほどだが
今日は凍えるような冷たい雨。

時間を外してやってきた私は
静かな、飴色の時間の中にいる。

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店内は広く奥には座敷席や大広間もある。


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外のお品書きにはなかったがこんな「定食メニュウ」もある。

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実際昼の混雑時などは圧倒的にこの天ぷらつきの定食メニュウか
天ぷらそばが人気だ。



しかし私はどこでもどんな時でもこの方に心を捧げている。

「ざるそば」
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「ザンバラ切り」と言ってしまいたくなるような不揃いな輪郭線。
中に少し縮れたようなものすらあり
やや固めのためそれらがそのいびつな形のまま口に入って来る。
その素朴さが田舎っぽくかえっておいしい。
箸先で寄せた香りはかなり個性的な野生の香りだったが
口に含むと不思議なほどそれが全く気にならず
小麦のうまみと蕎麦の滋味深き味わいが素直においしい。
いわゆるあまくやさしい二八の美味しさとも違う、
「硬派な田舎のお蕎麦」という印象が
まさに延暦寺の門前そばにふさわしい個性だ。
この蕎麦においては不揃いな上にやや硬めなところが魅力ですらある。
ちなみにこちらのお蕎麦は代々二八ではなく七三らしい。




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大きな店だけに茹でる量も必然的に多いのだろう、
蕎麦湯はサラサラながらしっかり味が濃い。
うどん湯?のような美味しさも感じてしまう不思議な蕎麦湯。
汁はかなりの甘口だ。


比叡山には平安の昔から「千日回峰行」という行がある。
100日間休まず毎日30~84km山中を歩き続けたり
「9日間の断食・断水・断眠・断臥」という医学的には生存不可能な荒行で有名だが
その千日の行の中には「五穀断ち」という期間もある。
もともと肉も魚も卵も食べない行の食生活からさらに
米・麦・粟・豆・稗の五穀と塩・果物・海草類を断つもので
その時唯一口にすることを許されるのが「蕎麦と少量の野菜」である。


毎日好き放題食べている私ではあるが
こんなにも愛している蕎麦というものがそういう存在であるということには
感無量の思いである。

人が最後に最低限必要とする、大地の恵み。



比叡山の麓の美しい空気の中
今朝出会ったかけがえなく澄んだ時間を思い
ひときわ大切な思いで蕎麦を見つめる。












posted by aya at 06:31 | Comment(0) | TrackBack(0) | 関西の蕎麦>滋賀 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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