「彩子ちゃん、和か菜に行きましょうよ」
美しい人にビロードのような声で言われて ぽーっとなってしまったが
よく考えるとそれはお蕎麦屋さんなのであった。
「ハイッ よろこんで!是非!!」
というわけで本日は、
かいぶつ句会でご一緒させていただいている
画家のおゆき坊さん(蜷川有紀さん)と、優雅に昼蕎麦〜♪
海と山に恵まれた、のんびりした田舎のような顔をして、
どっこい文化的に大変にシャレまくっている葉山の地。
田舎道にポツンポツンと現れる古くからある店が
まるでヨーロッパ映画の中のような可愛らしさだったり
(新しい店ならまだわかるが古いというところに仰け反る)
どこでもエシレバターが手に入ってしまったりという
恐るべき土地なのだ。
蕎麦の名店も点在するので私は来る度落ち着かないが
この「和か菜」は初めて。
どんなお店かな〜?
ご近所にお住まいのおゆき坊さんにとっては行きつけの一軒ということで、
ハリウッドスターみたいな車でサーッと連れていってくれる。
車を降りると、わ〜〜〜

空気が違う!景色がひろい!
なんてのどか〜〜!
地元の野菜を売るおじさんの車がまたいい味出してます。
こんなに静かでのどかなのに、駐車場が車でいっぱい・・?
建物は上品な住宅のような、景色になじむやさしい雰囲気。

入り口の手前に庭への入り口があったのでちょっと覗いてみる。



春の緑のにおい。
小鳥のさえずり。
東京からやって来た私にはこのまま溶けてしまいたいほどの安らぎだが
心の半分はもうお店に入ってせいろを頼んでいる。

外に居る時は小鳥の声しか聞こえず本当に静かだったのに
なんと店のなかはほぼ満席。
それもなんだか来ているお客さんが皆さんなんとも・・
私がいつも行くお店とは違いますよ・・
あちこちの席に目立つのは
「大統領夫人かっ」というくらい完璧に髪を美しくセットした
お年を召したレディー達。
もしくは住宅の広告にでも出てきそうな(?)お洒落な熟年カップル。
どのテーブルもみな楽しそうにおしゃべりをしながら
賑やかに蕎麦を手繰っている。
はあぁー こんな蕎麦文化がありましたか!
なんだか素敵な発見をしたような気持ちだ。
メニューを見るとお蕎麦は
「せいろ」「さらしな」「変わり(ゆず切り)」
の三種類。
メニュー本の細長い形やメニューからして一茶庵系らしい。
残念ながら「さらしな」は売切だったので
私もこの雰囲気に酔って、珍しく優雅に「せいろ天盛」などを♪

さっくりと軽い、上品な天ぷら。

「鎌倉一茶庵」や青山「くろ麦」を彷彿とさせる、
背の高い横長のせいろ。

この店のイメージにぴったりの、明るく美しい肌。
上品な白いイメージの粉の香りをほんのり淡くまとい、
流麗な輪郭線を際立たせて口中をめぐる。
上品なレディー達にも舌の肥えたカップル達にも愛される、
穏やかに澄んだ蕎麦だ。
店の中は賑やかだが
窓の眺めは絵画のよう。


おゆき坊さんが可笑しそうに言う。
「私、絵を描いたあと、夕方ガラガラの時にしか来たことがないから
こんなに混んでいるのは初めてよ〜」
平日は17時まで、土日祝日は19:30まで
中休みなしの営業の「和か菜」ならではの贅沢な時間だろう。
帰り際、「和か菜」のお隣の「杉山神社」にお参りしてから、
山を抱き海を望むおゆき坊さんの美しいお家へ。
濃い緑の向こうに静かに輝く海と
アトリエで目撃した製作中の絵画の息を飲むような色彩と
おゆき坊さんの優雅な笑顔がコラージュのように切り貼りされ
一日中笑っていた気がする、
豊かな豊かな葉山の一日。