2012年11月24日
中野坂上「ら すとらあだ」
巨大なビルが立ち並ぶ中野坂上交差点。
しかし路地を一本入れば、そこは目眩がする程昭和である。
「クラブ湯」。
どういうクラブかと思ったら
由来はなんと、あのクラブらしい(夜の)。
私が大変気に入っている「理容ムトウ」の手づくりポスターは
若いイケメンモデルにチェンジしていた。
写真に四つ折りの線が入っているところを見ると、
何かの切り抜きなのかな?
ムトウさんの美意識に響いた旬のヘアスタイルの写真に
こまめに張り替えられるのだろう。
暖簾も看板も何もない「ら すとらあだ」。
路地にこぼれる灯りだけが頼りである。
「ら すとらあだ」の夜は
コップ酒の瓶に入れられた手拭いおしぼりと共に始まる。
店主らしいセンスの、楽しい演出。
今夜はテーブル席も予約でいっぱいだそうだ。
店の趣は簡素だが、驚くほど美しい器に出会えてしまうのも
「ら すとらあだ」の楽しいところ。
普段使いの器の間に、凄い器が次々現れる。
薄桃と紅のアクセントが可憐な酒器で飲む、「佐久の花」。
ガラスの欠片が内側の光を外に放出している。
「レンコンとにんじんのキンピラ」
しっかり太めで食べ応えあるキンピラはおつまみにぴったり。
「キノコのスープ」
これは「ら すとらあだ」に来たら絶対の一品。
芳醇なキノコとバターの香り、ザックザクの「食べるスープ」。
おいしいなあ〜〜
うん、これは飲みやすい。「佐久の花」より大分いけそう〜♪(当社比)
これもまた、ロマンティックな酒器。
満天の星が夜空に溶けていくような。
「焼きみそ」
ケイジャン風味のマッシュポテトと西京味噌を合わせたという
アイディア焼きみそ。
和風の甘い味噌味は苦手なのでこの無国籍なアレンジは大変嬉しい。
焦げ目の黒とスプーンの黒が合っているのもおしゃれ。
(「偶然ですよ〜」と店主。)
「トマトとモロヘイヤのおひたし」
トマトのおひたしって?
と思ったらおひたしはモロヘイヤのみで、そこに生のトマトがドン!
和のおひたしをサラダ化したような、これまたいいアイディアですね〜
出汁もすっきり美味しいので全部飲み干してしまった。
私の背後のテーブル席に後からやってきた予約のお客さんはカップルで
先程から美味しい美味しいを連発している。
おつまみが出てくる度に「この10倍くらい食べられる」と言っている。
その二人の反応が、蕎麦が出てきて少し変わった。
先程までははしゃぎ喜んでいるふうだったが
今度は明らかに驚き面食らっている様子。
「えっ・・・なにこれ、こんなおいしいお蕎麦・・え?!」
フッフッフ、そうでしょう そうでしょう、
「ら すとらあだ」のお蕎麦は美味しいんですよ〜
と知った風に一人ニヤニヤしていた私だったが・・
お蕎麦が現れてギョッとなった。
な、な、ナンデスカこのモノスゴイ蕎麦はーっ!
「栃木・益子(三度碾き)」
超絶、抜けるような青緑。
まわりの空気までも青緑色にひんやりと染めていくかのような、
アイス・エメラルドグリーンとでもいおうか。
こんなに美しい青緑は何年も見たことがない。
生まれて初めてと言ってしまいたいほどの感激。驚き。
色のみならず、ざくざくふるふるとした肌の美しさも超絶。
それをたぐり上げてひろがる香りの美しさも超絶。
青くフレッシュで清冽で、しかし落ち着いた正統派のイメージのかぐわしさも併せ持った超・完全美。
脳の奥まで全てが洗浄されて澄み渡って、私は雲上の人になる。
おいしすぎてもうまばたきができません。なにもかんがえられません。
あああ もうなにがなんだか・・
「粉がいいだけですよ〜」と謙遜する店主。
しかし店主はこの蕎麦に合わせて「三度挽き」という大変な仕事をしている。
「ら すとらあだ」の蕎麦は全て手挽き。
ご存知「手挽き」とは、重い石臼を手でゴリゴリ・・ゴリゴリ・・・と回して
微量ずつ粉にするという、気が遠くなる程時間がかかる作業だが
それをこの蕎麦に関しては3回繰り返したというのだ。
1度挽きでは自分が思い描く蕎麦にならなかったということだが
それにしたってその労力と根気はすごいものだ。
3度碾くと食べてみて何か違うの?と思う方もおられるかもしれないが、
違いました違いました。
手挽きならではのゴツゴツ感、不揃いなざらざら感を楽しませつつも
それらが不思議と整った、するするすべすべとした面の内側にあるのだ。
限りなく美しいひんやりとした青緑が
私の口中を、喉を、そして体内を、するすると流麗にめぐる夢。
これが、店主が思い描いた蕎麦なのだ。すごい!
「ら すとらあだ」では、いつもはだいたい2種類の蕎麦が用意され
「そば 1種類」
「そば 2種類」
のどちらかを選ぶようになっている。
しかし今日は3種類あるということで「そば 2種類」の量で3種類食べられることになった。
うはははははぁ〜〜〜(^O^)
「富山・山田在来種(一度碾き)」
ウワー・・・
これまたなんと美しい肌なのでしょうか。
透明感のある澄んだ肌に浮かぶ、極粗碾きの粒子たち。
ふるふると揺れる輪郭線、白く溶ける夢のような肌の陰影を見つめているだけで
時間が過ぎていってしまいそうだ。
こちらは先程の強烈なフレッシュ感はないものの、
白く澄み切った、しかし蕎麦の滋味なるかぐわしさも隅々までまとった
素晴らしい蕎麦だ。
先程の蕎麦の後でなければこれまた目がかっぴらいて
数日忘れられないような蕎麦だっただろう。
こちらももちろん手碾き。
ここまでやるか!というほど粗く不揃いな舌触りに心を澄ませれば、
手をつなぐ蕎麦の粒子たちが目に見えるようだ。
それでいて食感は優しく凛として、
はああ・・・これまた、ただただ美味しい。
素晴らしい。
「北海道・多度志(1度碾き)」
こちらは太打ちですね。
ほわぁーーん
雪山のてっぺんで深呼吸したかのような、白く清くまぁるいかぐわしさ。
しかし清すぎて退屈なことなく、蕎麦というたくましい穀物のじんわりとした味わいが
しっかりと下を支えている。
ふっくらもにょーとした太打ちの食感の中に、
粗碾きの粒子が優しく浮かんでいる。
しあわせまみれでもうヘナヘナ、なんとか椅子に座っているような状態の私の背後に
悲壮な雰囲気の男性客が入ってきた。
さっき電話してきた人だろう。
「よかった・・・どうなることかと・・もう限界で・・」
「ら すとらあだ」の蕎麦をしばらく食べないと禁断症状が出るらしいのだが
その禁断症状と海外出張が重なり相当つらかったらしい。
今日は営業時間内に間に合うように無理やり駆けつけたらしい。
わかりますわかります!
おいしいものには罪がある。
私も今日あれだけの蕎麦を食べちゃったからには
そうなる日も近い・・・?
中野坂上の路地裏に、こわ〜い店がある。
暖簾も看板もない建物に、禁断症状で朦朧となった人々が次々と吸い込まれていく・・・
きゃー!
2012年6月の「ら すとらあだ」
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三度碾きの色、凄いですね。
こんな蕎麦、
一度でいいから出会いたい(´ー`)イイナー
いさとの青緑も凄いですよね。
あれは抜き実の選別の成果ですね。
私は「今は目の前のアナタのことしか考えられない」という一途?単細胞?なタイプなのでお店では思いもしませんでしたが、共通点は多いですよね。是非出会ってくださいませ!
prisonさま
いさとさんの信念と行動力は本当にすごいですね。その結晶であるあの蕎麦は、何度出会っても吸い込まれそうになります。
焼き味噌とキノコスープも大好物でして(笑
ほんとに何を頼んでも美味しいお店ですよね〜
ここ数回タイミング悪く行きそびれてるので行ってこないと!
>た、食べたい!!眺めたい!!
眺めるしあわせもありますよねえ〜
時間にしたら5秒もないのでしょうけど、人生の中の貴重な5秒です(^o^)
眺めながら食べるので・・ごふん ですよ5分!!
味わい眺め、全てを満喫するですって〜!
食べ終わるまでずっとなので言うまでもなく、
お店の人には変な目でみられますが・・・(苦笑
某お店では厨房から3人も現れ見送られ
こっ恥ずかしいったらもう・・・
最近は平常心を装って食べておりますが・・。
うっかり割引券もらったのかな? うっかり買っちゃたのかな?
ま〜っ 老眼のことだし
それにつけても 若ぶってカラ〜コンタクトなんか買っちゃったのかな・・・
どうもうさん臭いな、この色は・・
カラ〜コンタクトのせいかな・・
エメラルドグリーンの
先日伺った某お蕎麦屋さんのときは
なんか知らんが・・茶褐色のカラ〜コンタクトしてったみたいだった
どうも 最近 目 が・・・
それにつけても
緑だな
ねっ prisonさん
あーそういえばそうですね、食べながらも眺めていますね。でもあんまりそういう意識ありませんでした。食べ始めると意識不明なのかもf^_^;
お蕎麦屋さんで平常心を装う演技ならおまかせください!
而酔而老さま
確かに、自分の目がどうかしたのかと思うほど美しい青緑でした!