2012年02月07日
西国分寺「潮」
「西国分寺に潮あり」。
いや、
「我が日本に潮あり」、である。
世界に誇るべき名店は、
国分寺市の街道沿いに、ポツンと灯りをともらせている。
店内には店主の作である大小の仏像が
無数に、静かに「居る」。
この店と、訪れる人とを見守っているかのようだ。
今夜は楽しい仲間が6名集まり楽しい宴。
しかもお誕生日祝いも兼ねている。
皆楽しみ過ぎて昼ごはん抜きの向きも一人に限らず、
もう意味もなくニヤニヤニコニコ。
嬉しいな楽しいな、とりあえず、かんぱーーい!
座付「浜防風 胡麻びたし」
割山椒の小鉢に盛られた座付の一品。
浜防風の香りがなんとも素朴なさわやかさ。
胡麻あえではなく胡麻と出汁の胡麻浸しなので全体にすっきり。
その出汁加減と香ばしさのバランスが素晴らしい。
あまりに美味しくて汁を飲み干したく、
しかしそれには割山椒の形が難しかったが
皆真剣に工夫を凝らし、
しっかり全部飲み干していたのが可笑しかった。
この割山椒も店主の作というから驚きである。
ここでお酒を。
「男山」「あさ開」を冷で頼み
江戸切子の猪口が運ばれてくる。
きれいー
「男山」
仏師であり陶芸家でもある店主。
この店のほとんどの器は店主の作である。
どっしり素朴な注器。
「あさ開」
わたしコッチのほうが好きです。
おいひ〜
次の一品。
この黄瀬戸も店主作。
織部の緑が楽しい。
蓋を開けて一同からため息!
ワーーーー!(←私だけ雄叫び?)
温物「蕪菁むし」
ぐじ、白子、海老、穴子、銀杏、百合根、きくらげ、山葵、
なんと贅沢な蕪菁むし。
最初はただただ出汁のおいしさが体中に染み渡り、
とろ〜〜〜んと何が口に入っているのやらわからなかったが
卵の白身でつなげた蕪のやさしいとろとろ感が夢のような美味しさだ。
そのとろとろの中に発見して出会うものが全て驚くほど美味しい。
銀杏などはとても大きく、よくあるのとは違ってふっくらなめらか。
銀杏ってこんなにおいしいものだったの?
そして何と言ってもこの穴子の焼き加減、香り、味わいは・・・
人生最高と言ってしまいたいほど最高。悶絶。
美味しいものはお酒のペースを早めますのぉ〜
「浦霞」燗。
燗酒がおいしく感じる自分が嬉しいので
ちょっとアダルト?ユニーク?なお猪口を選んでみた。
うう・・染み渡る・・アダルトだ。
ここでやっと「前菜」である。
「前菜」
右上から時計回りに
「鰯辛煮」「雲丹磯辺揚げ」「あん肝味噌漬」「牡丹百合根」
「蕗のとう当座煮」「ばい貝旨煮」「のれそれ黄味明太(中央グラス)」
まず、私が泣いたのは
「蕗のとう当座煮」。
テーブルに置かれただけでふわぁーっと舞った春の香り。
はんなりじんわりといった煮物ではなく、味わいはスキーッとクリア。
蕗の薹の香りだけが鮮やかに際立ち、
塩気もしっかりあってお酒にぴったりだ。タマラヌ!!
「雲丹磯辺揚げ」
こんな味かな、と予想したのよりずっとやさしい味に驚く。
もっとメリハリの効いた味を予想したが、
グラデーションのような恍惚のマリアージュ。
なんと心憎い。おいしすぎる。
「ばい貝旨煮」
これも限界の薄味。薄甘さの中にばい貝の味わいがはっきり。最高の調理!
「あん肝味噌漬」
大事すぎて最期までとっておいた、北海道産あん肝の味噌漬け。
(おいしいものはとっておくタイプ)
おいしいだろうなーという期待を超えた、
濃厚な旨味、ネトフワ〜ととろける夢!この何倍でも食べたい。
「鰯辛煮」
これにも一同悶絶。
ギュッとさっぱり、パンチの効いた美味しさ。
酢だけで煮てから醤油で煮られてそうで、
骨が柔らかーい。骨がおいしーい。
ここでやっと前菜が終わったとは信じられない、
怒涛の美食づくし。
しかも最後にお蕎麦に会えるなんて、
今は胸が一杯で頭が追いつかない。
小吸物「くちこ汁」
生のくちこのお吸い物。
見るのも食べるのもはじめてだ。
不思議な形。くちこさんはじめまして。
しかしそのくちこを食べぬうち、まず出汁だけで驚愕する。
この最高の出汁!おいしすぎます。たまりません。
そしていよいよくちこを一口・・・・
私は、目をかっぴらいたまま口がきけなくなった。
シュクシュクとした不思議なさっぱり目の食感。
その中から、ずっしり濃厚な旨味が見た目の通りの繊細さで小さく、
そしてそれが束になって全体では大量に溢れ出してくる迫力。
こ、こ、こんなにおいしいものが世の中にあるんですかい!
「生でもクチコの味がするんだ!」と驚く声。
私はバチコも知らないので、バチコも是非食べたくなった。
向附「ぐじ引き作り 山葵」
店主の自信作・楓の器にぐじの皮の質感が映える。
「醤油だけでなく昆布でもおいしいですよ」
と刻んだ昆布が添えられている。
私如きの筆では何をあらわすのも物足りないが
ねっとり、濃厚、悶絶の美味しさ!
ぐじの味わい、甘みが最高濃度でダイレクトに味わえ
皮の部分がまたたまらなく美味しい。
確かに昆布はとてもよく合い贅沢な味になるが
慎重に試した結果、私はやっぱりぐじの味があざやかにわかる醤油が好き。
(しゃぶしゃぶ屋さんでは頑なにポン酢ゴマだれ拒否、
醤油だけで肉を食べる「ショユラー」につき、かなり異端派意見だと思うが)
でもこの昆布がまた何だかえらく美味しい。
皆「これだけで美味しい!」と大切にチビチビ食べている。
焼肴「まな鰹 味噌漬 赤蕪」
「刺身にできるまな鰹の中でも一番いい、
銀皮がビチーッとついてるのを焼いたんです」と店主。
銀皮に合わせて銀の器で。
肉質がきめ細かくねっとり濃厚。
私西京焼きに弱いもので、これまた・・
この10倍でも食べたい!
さていよいよ本日のメイン。
鍋「真鴨なべ」
下仁田葱、しろ菜(京野菜)、椎茸、豆腐
最高級のこの真鴨はなんと・・・!?
琵琶湖産、と聞いて驚いたが(禁漁なので)
琵琶湖湖畔より300m以内は全面禁漁でも、狩猟を許可された場所があるらしい。
さすがは、圧巻の美しさである。
肉は最後に食べるので、まずはこちらから。
鴨つみれ、入りまぁーす♪
野菜、入りまぁーす♪
鴨鍋第一章「鴨つみれと野菜の鍋」。
野菜も美味しいがこの鴨つみれには一同騒然。
ジャッキジャキに骨が入っている。
「かみそり骨」以外の骨は全部叩いて入っているということで
超ワイルドな食感。
しかし味わいよくある下卑たところが全くなく驚くほど品が良い。
脂もギンギンのっているがじわーとやさしい旨味で、
パクパク食べてしまうではないか!
ここで、肉、入りまぁーす♪
鴨鍋第二章「滋賀県産真鴨肉、レバー、ハツ入り」
私、今日生まれて初めて鴨鍋を食べた気がする・・
と思うほど、今まで食べた物とは別物である。
鴨鍋ってこんなに美味しいんですか!
この鴨・・見た目はさほど厚切りでもないのに
見た目以上に肉厚、ふっくらとしている。
それを噛み締めた時の美味しさ、幸せ感と言ったらない。
もう胃が痛いくらいお腹いっぱいなのに2杯いきました・・・
しかも、この鴨鍋に「平そば」が飛び込みます。
贅沢〜
斜めお向かいのお誕生日ガールは湯気の中で
「おいしい〜っおいしい〜っ♪」と幸せいっぱいの笑顔。
「そばサラダ」
ドッカーン。
写真では大きさがつかみにくいと思うがこの器、直径35cmくらいあった。
量にもびっくりだがその美味しさにも歓声が上がる」。
玉ねぎと人参とお酢のドレッシングに
胡麻と揚げ湯葉の香味がすばらしい。
「ポテトチップだっていいんですよ〜」と店主はおどけるが
湯葉だから出る、品の良い、絶妙のアクセント。
そして何より、これだけのはっきりした味付けの中に
蕎麦のかぐわしさ、味わいが出ているのに私は参った。
実は胃弱の私、先刻から本当に胃が痛くなり
失礼ながら休憩までしていたのだ。
しかしここでいきなりモリモリ元気になり
お替りまでした私に、一同も私自身もビックリ。
やはり、おかしい。
最後に出された「海老芋・東西」。
「海老芋(関西風)」
「海老芋(関東風)」
関西風はあっさりと出汁で煮たもの。
関東風は甘辛の煮転がし。
この頃にはお腹ぱんぱんを通り越して
食べ過ぎて胃が痛いのをずーっとこらえていたのだが。
ハッッッ
あなたは・・・
ときめく、「潮」の蕎麦。
きめ細かな肌の、かすかな青み。
緑でなく、ブルーのような青さにまず心を奪われる。
香り立つ、正統派、王道のかぐわしさ。
優しい歯ざわりの肌は、やわらかな印象だが、
噛みしめるとひょいっと受け止めてくれるコシがある。
何よりも口中を染め続ける洗練のかぐわしさが素晴らしい。
さっきそばサラダの中に見つけた香りと味わいはまさにこれ。
これは、今までに食べた潮の蕎麦の中で最高の美味しさだ。
ああ大好き・・・
ここでもまた、食べきれなかった人の分を引き受けた私。
みなさん・・そんなバケモノを見るような目で・・・見ますよねそりゃ。
さて食後のデザートタイム。
これだけの料理人で仏師で陶芸家でもある店主、
パティシエでもあるからもう驚く気力も残っていない。
今日はお誕生日の方がいるということで
ホールのバースデイケーキ!
おめでとうございます〜♪
しっとりとキメの細かいスポンジが見事。
スポンジの甘さはしっかりめで、生クリームは甘すぎず、
お酒の効いた「大人のイチゴケーキ」(^o^)
これで素直に終わらないのが「潮」。
大トリは和のデザートで。
「翁松」
最後まで楽しく驚かせ続けてくれる潮さん。
この和菓子・・・
ニッキの風味と松の実が美味しく、
なによりこの真中の白餡が異様に美味しい。
何とこの私が、この超満腹状態で完食したのだ。
甘いもの全般苦手、和菓子や白餡はもっと苦手なはずなのに・・
あまりに不思議で、「この白餡は・・?」と聞いたら
なんと生クリームが仕込んであった。
さらに腰を抜かした。
生クリームはもっと苦手なはずなのに
「潮バランス」で魔法をかけられたのだ。
夢の余韻。
毎日毎日、まばゆい料理を生み、
休むことなく物を作り続ける。
日本が世界に誇る「潮」店主の両手である。
この記事へのトラックバック
いくつか懐かしい料理もありました。
1週間ほど体調不良で倒れていた私は、
そろそろあの晩に果たせなかった
あまたの課題をやっつけに出かけなければ。
くちこ汁は個性的なだけに確かに想像しづらいと思います・・でも個性的なだけに細部まで忘れられない体験でしたぁ〜。鴨鍋の衝撃も!
TCさま
体調不良?一週間って長いじゃないですか〜〜!今年は冬が厳しいですからね・・大変でしたね・・。御無理なさらずゆるゆる起きだして楽しいTC的活動をゆるゆる復活させてくださいね。