JR南武線「鹿島田」駅。
駅名自体知らない人もいるかもしれないが、
横須賀線「新川崎」駅と重なりそうで重ならない、
微妙な位置にある駅である。
両駅間の距離、およそ300m。
その鹿島田駅から東に、多摩川に向かって歩いて行くと
「古市場銀座」というちょっと不思議な、古い商店街がある。
いわゆる商店街らしいエリアもあるらしいのだが、
この「手打 たけうち」があるあたりは道幅も広くごく静か。
街路樹と並んで通りにいくつも飾られた
「古市場銀座」の看板が不釣合なほどである。

店の印象は、外と中とでかなり違う。と私は思った。
開店間もない午前中。
何の先入観もなく「こんにちは〜」と店内に入り
椅子に座ってなんとなく周りを見回す。

するとなんでしょう、私は突如、
ニヤニヤ〜〜〜とうれしい顔になってきてしまいました。
なんだかここは、すごーく楽しくて、すごーく居心地がいいぞ!
店舗そのものは白壁に白木の風合いの爽やかな
シンプルなインテリアに出来ているのが、
そこに加えられたこの店の人のセンスがなんとも楽しい。
至る所にベタベタとたくさん貼られた大きめ半紙のおいしそうなメニュー。
テーブルの上の、ランチョンマットがわりの簾も
この店のインテリアの大きなポイントになっている。
飾られた花もふんわりと遊んでいるように自然な姿で
全体に「実にセンス良くごちゃついている」のだ。
こういう居心地のよさは狙って出来るものではない。
しかもですよ。
壁に掲げられたメニューはどれも美味しそうなのだが、
あの、あのあたり、ヤバいんではございませんか?

「自家製 帆立貝柱 酒粕漬 あぶり」
「自家製 かきオイル漬」
「自家製 大粒かきの酒粕漬 北海道 厚岸 仙鳳跡産」
ぜっっ
全部美味しそう過ぎて絶対に選べまへん!
とりあえずこれをつまみながら
どれにするか考えよう。
「和風すもーくサーモン」
「八海山しぼりたて原酒」

最後のところだったから、とサービスで多めに盛ってくれました。
肉厚ふっくらおいしいスモークサーモン。
うーん、私は本当に燻製に弱いのぅ。
つまみながら、先程の黄金トリオの張り紙を穴が開くほど眺め
ついに心を決めました。
「自家製 大粒かきの酒粕漬 北海道 厚岸 仙鳳跡産」

(>_<)
美味しそうだと思ったけどそれ以上に美味しい。
このねっとり濃厚、凝縮された牡蠣の旨味。
酒粕のやわらかい甘さ。
大粒だけに部位ごとの味わいの違いがはっきり楽しめるのもたまらない。
添えられた林檎がまた意外ながら実に良く合っている。
「すごい、この合わせ方上手すぎ!」
と思ったら
「いやー、いつも合わせてるキュウリ切らしちゃって、
そこに林檎が目についたんでー」
と何でもなさそうに言う店主。もしや天才ですか?
2品しか頼んでいないというのに
ここまででもうやたら長居しています。
予定外の展開です。
居心地の良いお店ってどうしてもこうなってしまう。
最初はガラガラだった店内、気づけば昼時のお客さんで満員である。
みんなおいしいものがある場所は知っているんだなぁー
さてお蕎麦。
本日はこんな素敵なお蕎麦がありますの。うふっ

「八ヶ岳そば 平出農園産 新蕎麦粗挽き 八ヶ岳山麓そば」!
では是非それと、スタンダードな「石挽そば」を1枚ずつくださーい。
「石挽そば」

お皿にたっぷり小山盛り。

見た目以上につるつるみずみずしい蕎麦。
説明に「コシの強いそば」とあったとおり、強靭なコシがある。
香りや味わいはごく淡いが濃厚サーモンや濃厚牡蠣を楽しんだあとの
このつるつるのみずみずしさは実にさわやかだ。
秋田県十和田産階上早生。
そして本日のお蕎麦
「八ヶ岳そば 平出農園産 新蕎麦粗挽き 八ヶ岳山麓そば」


うわぁー素敵な眺めだ。
確かにこの肌、先程の「石挽そば」よりちょっと粗挽きかな?
と思ったが、こちらもつるつるみずみずしく
粗挽きと言うほど粗挽きでもない。
うーん、ここのお蕎麦は飲んだ後には最高なのですね。
私の体の中をサラサラサラ〜と蕎麦が流れていくようだ(文章はイメージです)。
こちらの方がかすかに、ちょっと不思議な粉の香りが楽しめる。
噛みしめるとまた淡い味わいが生まれ・・サラサラサラ〜
デザートは
「自家製そばシフォン」

これがおいしくてびっくり!
いや、びっくりしては失礼なのだが、
私甘いもの全般が苦手なもので・・
きっと蕎麦粉の魔法だろう。
ふんわり過ぎない、素朴な粉の美味しさ。はじっこもおいしい。
「でもこれちょっとぼそぼそしてるでしょー、だからこれかけてみて」
と途中で梅酒をかけてくれた店主。
いやいや、なくても、と言うか私には何もない方がおいひいです!
そして添えられた「自家製紫芋アイス」がまた初めての美味しさ。
アイスと言うにはこれまたポロポロしているのだが
こういう「素材感」が味わえるデザートってなかなかない。
すっかり長居をしてしまい、店を出るとまた静かな並木通り。
外から店内の様子は伺えず、午前中に入ったときは
こんな展開になるとは全く思っていなかったことを思い出す。
「本日のそば」はいろいろ変わるので(手挽きもある)
次回は「あらかじめ長居するつもりで」参じますよー!
.
入ると意外な酒と肴と蕎麦の品書き
でも変に狙っていないマイペースな御主人
自分も気が付くと長っ尻になってしまいます。
なぜか居心地いいんですよね。
まさにまさに、そうですよねっ!
意外性と絶妙な居心地の良さがすごい魅力ですよね。