信濃町駅前の手打ち蕎麦屋。
古いビルの階段は容赦なく急で
うっかりヒールの高い靴なんて履いていってしまうと
落っこちそうで怖い。
しかし常連は慣れた風でひょいひょいと降りていく。
ドキ。
私の心を一瞬にして波立たせる「手打そば」の文字。
薄暗い通路に立ちつくし、しばし眺む。
ああああ、美しい。
「手打そば」「手打ち蕎麦」「手打蕎麦」「手打ちそば」
どの表記もそれぞれに、少しずつ違った光彩で私の心を染める。
「送り仮名なしの ”手打” に平仮名 ”そば” ・・・ああこれもやっぱり素晴らしい・・・」
店に入りもせず恍惚とする私は、端から見たら不気味かもしれない。
つるつるとすべらかな肌。
小麦粉と蕎麦粉の混じった甘い香りが
のんびりした気持ちにさせてくれる。
今日は偶然か、やや熟成感も感じられる濃い味わいだ。
地下の店ゆえ目立たぬはずだが
店はたいへん賑わっている。
次々入るオーダー、はなやかに蕎麦すする音、テーブル客のおしゃべり。
厨房で働く人のキビキビとした美しい動きを眺める人は誰もいない。
喧騒の中のやすらぎ。
古いビルの地下に、こんな時間が流れている。
2010年12月27日
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