2010年11月17日

千葉・初石「更科 すず季」



もし、何も知らないでこの店の前を通ったら。


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そこにそんなにも尊い世界があるとは
私は到底気づくことはできないだろう。

看板にはただ「そば処 更科」。
小麦粉味のそばをドーンと大盛りで出してくれて
ランチにはカツ丼とかカレーライス目当てのお客さんでにぎわいそうな雰囲気バリバリである。

「更科 すず季」さん・・ちょっとそりゃフェイントかけすぎでしょう!

・・と最初は思ったが、店をよく知ればこの外観もまた趣深い。
特に入り口を飾る松の木は
「イヨッ、すず季の松の木!」
と幕開けの拍子木でも打ちたくなるような決め姿。

ここは蕎麦だけでなく、蕎麦前も素晴らしい。

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「穴子のにこごり」。
にこごり全般好物だが穴子好きの私には絶対はずせない一品。
御覧下さい、この穴子の立派さ、美しさを!
世の中、「こわれせんべい」ならぬ「こわれ穴子」のようなものが
ゼラチン質の中にチラホラ寂しく浮かぶ煮こごりも多いなか、
この「姿そのまんま煮こごり」は嬉しいじゃあないですか。
天然ゼラチン質の口溶けもやさしく、嗚呼のっけからしあわせ。

気づけば早くも店内はほぼ満席。
しかもランチ時だというのに
その内の一組以外は全員「昼酒組」という驚くべき眺め。
やっぱりねえ、飲んべえは美味しい店を放っておかない。

ここは天ぷらも大変美味しいのだ。
天ぷらで何が好きかと問われれば穴子と舞茸と答える私には
まず品揃えからして嬉しい。
そして「更科 すず季」の天ぷらはどこまでも潔く、
ガツンッ!バリッ!と揚がっている。


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しかし「更科 すず季」はなんと言っても蕎麦である。
更科、と店名にはあるが分類としていわゆるさらしな蕎麦の範疇に入るものではない。

自家製粉石臼挽き、十割の「生粉ざる」。

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この写真では、この蕎麦のゆかしき迫力が全く表現出来ておらず実に残念だ。

私はこの蕎麦に対峙し、漠然としたショックすら受けたのだ。
パッと見の印象はおとなしいのだが、
見入ればドキリとするほどの美しさ。
この蕎麦は、違う。
私が今までに見たどの蕎麦とも違う魅力だか、力だかを持っているに違いない。

箸先にたぐり上げ、香りを寄せると
ふわあと軽やかな、草のような香り。
ここまでは、まあ他でも出会えそうな蕎麦かもしれない。
しかし口に含んで初めて、
私が漠然と予感したものがここにあったと合点した。
この上なく尊い空気感、やさしい歯ざわり。
ひと噛み、ひと噛みが嬉しくなるほどの絶妙なコシ加減の内側から
次々こぼれる美しい穀物の味わい、芳しい空気。
この蕎麦は何か超越したものがある。
何でもなさそうに、軽々と雲の上に載せてもらったような心持ちだ。
こんな凄い蕎麦に出会えるとは!


この「生粉ざる」だけでも驚きなのに、なんとこの店には手挽きがある。
ああああ、しあわせすぎてどうしよう。
「手挽き田舎ざる」。

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見るからにしっとりとやさしい肌。
これだけの黒さながら女性的な印象を受けるほどの
控えめなやさしい野趣である。
香りはおだやかだがしっとりした歯ざわりの中に生まれる
ジャリ感がたまらない。



ここでこうして書きながら気づいた。
(店でわからなかったことがあとで書きながらわかることはよくある。)

私は「生粉ざる」に対して「ゆかしき迫力」と書いた。
「手挽き田舎ざる」に対しては「控えめなやさしい野趣」と書いた。
後から思い出しながらでも、書きながら本能的になんとなく選んだ言葉というのは
実は一番確かなものだ。
「更科 すず季」の凄さは、そのゆかしさ、控えめさの奥に潜む迫力なのだ。
一見するとごくおだやかそうな姿ながら、
油断禁物、食べてびっくり。


まさにこの店の外観そのままではないか。















posted by aya at 22:36 | Comment(0) | TrackBack(0) | 関東の蕎麦>千葉 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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