東京から行くと静岡県の中でもいちばん遠い浜松市。
その浜松市の中心部からもかなり離れ
もう少しで愛知県という奥まった場所に、店はある。
おいしいみかんで有名な三ケ日町である。
こんなところに店があるのか・・と不安になったころ
道路端にぽっと現れる小さな看板。

うわーあぶない、
危うく見逃すところだった。
そしてお店はこの奥・・・?

ジャーン。
どんなに店らしくなくとも、
看板があるからには店なのだろう。
まるで不法侵入者の気分で、
意味もなくワクワクニヤニヤしながら奥へ回ると・・

こんなところにガラガラーっと入っていくなんて
何とも楽しいではないか。
扉を開けると正面に出迎えてくれるのは
みかんである。

さすがは三ヶ日、いいですねぇ〜
せっかく「試食用」とあるので
皆、手に手に半分のみかんを持って入店。
食前に生野菜や果物で酵素を摂るって、
とってもいいことなのだ。
今日、夜のお客は私たち4人だけの様子。
静かな夜、たった一人で迎えてくれた店主は
いつもこうして一人きりで営業しているらしい。
「陶そば」と名乗るだけあって店主は陶芸家でもあり
店の器は全て店主の手によるものである。
話好きの店主の一番のおすすめはそばがき。
どろーりとした食感の粗挽きそばがきである。

そして蕎麦職人であり陶芸家である店主は、
なんと店で出す山菜や野菜も
自分で作っているというのだから驚かされる。
この畑の恵みの楽しいこと!

海老や蕎麦餅の天ぷらと共に皿を飾るのは、
店主の畑からやって来た
あばしゴーヤ、ぬるっぱ、タラの若葉、
みょうが、ししとう、オニザンショウ(イヌザンショウ)。
聞いた事のない野菜は、店主も最初は聞いたことがなかったそうで
初めて育てた時の話などを聞きながら
採れたての野菜を食べる贅沢。
蕎麦は2種類、「並挽きの二八」と「粗挽きの十割」。
「二八が十割のあとでは味わいとして絶対に物足りなくなっちゃう」
という店主の勧めで、まずは「並挽きの二八」から。
二八は2枚を4人で分けると言ったら
二山ずつの小山盛りにしてくれた。
その心遣いに、皿の上の二つの小山が
一層美しく感じられるではないか。


店主が陶芸家という先入観があるからか、
二八の肌はさながら信楽のような素朴な風情。
言われた通り味わいは淡いのだが、
香りがとても不思議・・・スイカのような香りである。
瓜に似た爽やかな香りがする蕎麦はたまに出会うのだが
これは初めて。
面白いなあ。


「粗挽きの十割」は
二八よりもしっかりと、凛とした印象の輪郭を重ねながら
うず高い小山盛りでやってきた。
若干こちらの方が全体の色が濃く
素朴な肌に散る粗挽きのホシが目にまぶしい。
箸先にたぐると、おおー、確かに!
二八にはなかったかぐわしい香りに嬉しくなる。
口に含むと、凹凸のある肌がザラザラーと口中を撫でるのが実にここちよく、
噛みしめると穀物の旨みがじわっと舌の上に広がる。
しかも二八にも添えられてきた正方形の「蕎麦板」、
これがとても美味しい。
蕎麦が売り切れてしまった後に来たお客さんに
食べてもらったら「美味しい」と喜ばれた、というのがはじまりだそうだが、
噛みしめると蕎麦切りよりも味わいが深く感じられ、
なんとも嬉しいおまけである。
店主の楽しい話にすっかりくつろぎ、
ようやく帰るときに見かけた、この店の器たち。

陶器のプロだけに、
毎日しっかり完全に乾かすという手入れをここでしているそうである。
自分の畑で採れた野菜と、
自分で粉を挽き手打ちした蕎麦。
それを自分の手で作った器に並べ、来た人に食べさせるということを
ここでたった一人で、毎日している店主。
もうすぐこのあたりではこれが採れる季節だ、
来年はこんなものも育ててみようかと思っている、
と実に楽しく忙しそうだ。
語り口はちょっと面倒くさそうながら
人懐こく非常に親切なところが味な店主である。
おいしいものと、楽しい話と、おみやげのみかん。
入るときも店と思えなかったが
店を出ても尚、店だった気がしない。
三ヶ日の、いい夜だった。
(Sさん、こんな遠くまで連れていってくださってありがとう!)
そうですよねえ、静岡から愛知県に入った途端、急に世界がうどん色になりますものね〜。
陶そば正、最初は見つけにくいかもしれませんが・・と今のんきに書いておりましたら、なんと!
移転したという情報を得てしまいました!
新店舗は
静岡県浜松市中区小豆餅2-32-12 マンション丸山 1F
053-439-0139
のようです。
豊橋からは少し遠くなってしまいましたが、
行かれそうでしょうか?
私のそば打ちの先生おススメのお店は「薮蕎麦宮本」です。お近くにお越しの際はぜひ!
〒427-0107 静岡県島田市船木253−7
宮本がお好きなのですね〜!私も大好きです。
こっそり・・(^^)
http://ayakotakato.seesaa.net/article/286532832.html