2010年09月22日
静岡・掛川「手打そば 居尻」
静岡県掛川市。
駅からもICからも程遠く
おまけに土日しか営業していないながら、
予約だけで蕎麦が売り切れてしまうこともある店がある。
そう聞くと何だか忙しないような、
ゆっくりくつろげないような印象を受けるかもしれないが
行ってみれば、店は田舎らしいのんびりした時間の中に
ごくおおらかに佇んでいる。
日程を合わせここにたどり着くまでは
決して便利とは言えない店だが
よい店はどんなに隠れていても例え不便でも、
人が集まってきてしまうものだ。
たどり着いてみれば暖簾に店名すらない古民家。
道路端に掲げられた「手打ちそば」の幟を除けば店とも思えず、
田舎の民家を訪ねるようなわくわくした気持ちにさせられる。
(写真は退店時なので幟が取り込まれた状態〜)
ここの最大の特徴はやはり、全国各地の蕎麦を取り寄せ、
日によって違う産地のものを打ち分けていること。
いくつかの産地の蕎麦を食べさせてくれる店は都内にもあるが
「居尻」の情熱は半端ではない。
北海道旭川市江丹別 北早生
北海道樺戸郡浦臼町 牡丹
長野県木曽郡開田村 在来種
長野県長野市戸隠村 在来種
茨城県久慈郡金砂郷 常陸秋蕎麦
群馬県利根郡片品村 在来種
山形県新庄市十日町 在来種
福井県福井市丸岡町 在来種
滋賀県米原市甲津原 在来種
島根県出雲市 玄丹蕎麦
島根県大田市石見銀山 在来種
実に常時10箇所以上もの産地の蕎麦を揃え
その中からその日毎に3種を打っているのだ。
こと蕎麦となると恍惚となりやすい私は
ホワイトボードに掲げられた名産地の名の羅列を見ただけでうっとり。
浦臼町と聞けば浦臼町の、
十日町と聞けば十日町の青い蕎麦畑に遊ぶミツバチとなって
全国各地にブ〜〜〜〜ンと飛んで行ってしまいそうだ。
他店でもよく見かける名高い産地の名に混じって
「滋賀県米原市甲津原 在来種」
「島根県大田市石見銀山 在来種」
なんて珍しい産地があるのも見逃せない。
しかもここに書いていない産地のものもまだあるというのだから
ワクワクを通り越してソワソワモゾモゾ、
挙動不審になってしまうではないか。
囲炉裏端の席に通され、あらかじめお願いしておいた3種の蕎麦を。
1枚目は、ホワイトボードには「滋賀県米原市甲津原」とあった、
滋賀県は奥伊吹の蕎麦。
これは・・・本当に珍しいですよ聞いた事ないですよ。
ニコニコ甲斐甲斐しい娘さんに運ばれてやってきた
「奥伊吹」に、感激のご対面。
古民家に差し込む自然光の中、
飾り気のない印象で現れた蕎麦。
ピカピカとした輝きも殊更な粗挽き感もなく
ただしっとりと控えめに、細かい黒いホシをまばらにたたえている。
箸先にたぐり香りを寄せ軽く驚く。
嗅いだことのない香りだ。
なんというか・・・穀物よりもさらに原始的な印象の香りと言うべきか
きのこの一種にでもありそうな香りというべきか
とにかく「こんな蕎麦の香りもあったのか」と
驚かされる香りをまとっているのだ。
口に含むとその香りは一層ふくらんで感じられ
噛みしめれば強い弾力もなくやさしく途切れていく手作りの風情。
「原」。
私には、この漢字が食後のイメージとして浮かんでならなかった。
原始の「原」。
起原の「原」。
奥伊吹の原の「原」。
蕎麦のはじまりの夢を見たような、そんな錯覚を覚える蕎麦。
2枚目は、私の大好きな福井。
古民家の陰影の中に浮かび上がる繊細な輪郭線。
震えるラインがなんと貴く美しいことか。
淡く青みを帯びた明るい肌は、素朴な奥伊吹と比べるとぐっと清らかな印象である。
香りはふわーっと豊かな、大好きな福井の香り!
・・・?
いやちょっと待てよ、その奥に、その下に確かに横たわるは
先程の奥伊吹で感じた「原」のイメージ・・・
不思議不思議、「居尻」の魔法にかかった思いだが、
この香りは奥伊吹の香りではなく、
まさに「居尻」の魔法の香りなのかもしれない。
奥伊吹同様コシは強くなく、
ハラリと噛み切れるのが儚くもまた「原」の印象。
それでいて、最初に感じたかぐわしさを
最後まで濃厚にたたえ続けるたくましさも感じる蕎麦だ。
最後は、実はこれが一番のお楽しみかもしれない、
「島根県大田市石見銀山」の在来種。
うひゃぁーーー
み、見るからに美味しそうすぎるこの姿。
運ばれてきた時点でもう大興奮、思わず奇声が漏れてしまった。
黒っぽく、ざっくりとたくましい肌。
素朴な曲線を描きつつ、笊の上におおらかにひろがる様にときめかされる。
たぐりあげれば、うううう・・・・
きましたよ・・・待ってましたよ・・・・
脳がとろけそうに濃厚な、かぐわしさ。
噛みしめると程よい弾力とともにジャリ、という粗挽き感も楽しめ、
その内側からは溢れ出すは穀物の甘みと滋味深き味わい・・・
わたくし、四方八方から喜ばされ過ぎてもう目が開きません。
目を閉じてしあわせにモグモグ・・・
あれれ。
なんとここにも顔を出す、「居尻」の魔法の香り。
楽しいなあ。
食後の、あまいもの。
蕎麦ぜんざいを出してくれた娘さんが
今ある蕎麦の説明してくれる。
説明用に小分けパウチされた玄蕎麦を見せながらの
楽しい、それぞれの蕎麦の話。
食べ終わったらすぐ次のお客さん、という
回転優先・儲け優先とは対極の、家庭的なもてなし。
一度来たからにはゆっくりしていってほしい、
楽しんでいってほしいという店の願いが、
またここに来たいと思うお客さんをどんどん増やしてしまうのだ。
無論私もその一人である。
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ウチの店を素敵に紹介していただき、両親もとても喜んでおります。
最近では、日曜日限定で生粉打ち(十割)を出しています。
一般的な十割蕎麦とは違った珍しい蕎麦だと思います。
産地も現在進行形で、増えていますよ♪
是非、またいらしてくださいね♪
お待ちしております♪
今週は土曜、日曜営業。来週は月曜、火曜営業。次の週は水曜、木曜営業。その次は金曜、土曜営業・・・
そんなお店があると、もっと色々なお蕎麦を楽しめるんだけれどな・・
悲しいかな、私には本当の定休日があって、伺えない、楽しみたいが楽しめないお店が一杯ある。
何処かにないかな・・・
なんだか絵本の中のようなお店ですね。でもお店の方もそうやって定休日を動かせたら、店主さんもいろいろな処に行かれるのになあーっていつも思います。
理香さま
お久しぶりです、コメントありがとうございます。
日曜日限定生粉打ち(十割)!!
なんという魅力、吸引力!!
い、行きたいです・・・(>_<)
ま是非お邪魔したいです♪