
拙著「蕎麦こい日記」でご紹介した、
新橋「辻そば」が上総一ノ宮に移った跡が
お弟子さんによって「ときそば」となって一年。
開店からそんなに経ったことに驚きつつ
久々に訪れてみる。
店内の印象は辻そば時代とほとんど変わらず。
私はここのこざっぱりと清潔な雰囲気が大変気に入っている。
「ときそば」だけに落語がBGMとしてかかっているのが面白い。
うるさくない程度にかかっているのでよく聞き取れないが
「時そば」ではないような?
私にとっての「時そば」は昇太師匠が標準&最高なのでわからないが。
(って書いただけでも細部を思い出してニヤニヤしちゃうほど可笑しいのだ!)
「ときそば」のお蕎麦は細打ちと太打ちの2種。
まずは細打ちから。


おおー
実に艶やかな黒っぽい蕎麦。
疎らに散る、黒々はっきりとしたホシが目にまぶしい。
見るからに密度の濃さを感じる蕎麦は
細打ちながら重量感をもって箸先に絡まり
干し草にも似た香りをほんのりと放っている。
口に含むとつるつるとした肌が口内を滑り
その中で時折感じる粗挽きのチリッとした刺激が実に快い。
全体の印象は違えどこの「時折チリッ」の心憎さは
師匠の「辻そば」を思い出すではないか。


太打ちは、平打ちで。
これも黒いホシがピリリとアクセントになった黒っぽい蕎麦である。
香りや味わいがそっくりなので
細打ちと太打ちは切り方の違いだけなのかもしれないが
やはり太打ちだけにしっかりと噛みしめて味わうことができる。
太さだけでなくこの密度の濃さであるから
噛みしめ甲斐もあるというものだ。
色々とても似ているのに、「辻そば」とは全く違う蕎麦。
時の流れに思いを馳せつつ、しみじみと味わう時間。
ここは「ときそば」、いい店だ。
お楽しみの蕎麦湯の湯桶には
見慣れぬものがささっている。

なんと濃いところが下に溜まってしまいがちな蕎麦湯のための
「竹製マドラー」なのだそうだ。
竹製だが竹のにおいもしっかり抜けており、
雰囲気も全体によく馴染んでいる。
何よりこういう、使う人の立場に立った思いやりというのは
嬉しいものではないか。
とは言え、かつて
「しあわせは蕎麦湯の底の濃いところ」
と詠んだ私。
しあわせは貯金して最後に楽しみたいため
残念ながらこのお店の素敵な思いやりは使えなかった。
ああもうやめたいこういう頑固な自分。
でもこれ、
「蕎麦湯と見たら、どんなに湯桶が大きくてもあるだけ飲み干す!」
という頭のおかしい人(私)以外には
本当にとってもいいですよね!
そうそう、湯桶の奥にチラと見えていたメニューも
チェックいただけましたでしょうか。
えいひれ、肉豆腐、焼きナス、干物盛り。
新橋の蕎麦屋で飲みたい者の心をいかにもくすぐりそうなラインナップ、
今度は飲める人とゆっくり来なくっちゃ。
また来ますね〜
ときそばさん!
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