星と書いて「あかり」と読ませるとは
なんとロマンティックなのだろう。
この手の詩情に弱い私は、訪れる前から
「星光浴」のような静かなやすらぎを覚えていた。
どっこい店は煩雑な道頓堀の繁華街ど真ん中。
環境としてはロマンティックとは対極と言っていい雰囲気であった。

店内はこぢんまりと小さく、
作務衣姿の店主がひとりで迎えてくれた。
昼時も過ぎていたため他に客の姿はなく、
カウンターには選りすぐりらしいお酒の一升瓶が林立している。
夜は賑やかなのだろうが今はガランとして、
開店前の蕎麦居酒屋といった印象。


しかし蕎麦に対峙して、
私の心は突如ロマンティックに自転しはじめた。
眼を見張るばかりに美しい、
黒や白、大小のホシ。
粗挽きの肌にくっきりと、
あるいはゆらめくようにふんだんに散りばめられ、
そのまばゆさに思わず目を細める。
店名の「星」は、このホシなのかとも思えるほど。
真昼の道頓堀、ひそやかな星光浴。
粗挽きの肌は野趣に富んだ趣ながら
そのあまりに美しい輪郭線が故に全体としては洗練の印象すらあり
完成度の高さが伺える。
たぐりあげれば
ほのかに甘くやさしい粉の香り。
初めは淡く感じられたが次第に香ばしさを増してくる。
粗挽きだが舌触りはなめらかで
噛みしめると心地よいコシが受け止めてくれる。
その味わいにしても姿にしても
空気をはらみながら踊るように重ねられた盛りつけ方にしても、
小慣れた「うまさ」に唸らせられる蕎麦なのだ。
こんな店がこんな便利な場所で
深夜3時までやっていてくれるなんて。
しかも営業時間は、なんと昼から深夜3時まで通し。
いつ何時「蕎麦衝動」に駆られるか分からない者にとっては
どれ程ありがたいかわからないが
まさか全てひとりきりでやっているわけでは、と
店主の労働時間が大変心配である。
心配ではあるが、電車もなくなり夜も更けに更けたころ、
この店の存在を山の上にひとつだけ輝く小さな星のように
頼るファンも多かろう。
飾り気の無い主人が飾り気なく
この美しい蕎麦を出してくれるのだろう。
そう思うと、やはり店名のとおり
ロマンティックな店に思えてくるのだ。
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