2011年08月01日
神奈川・片瀬山「手打そば処 山家」
「片瀬山」駅と聞いても東京の人はピンと来ないと思うが
私には故郷のような場所である。
大船から湘南モノレールで約10分。
終点の「湘南江の島」駅の2つ手前のこの駅は
私が6年間通った中学・高校の最寄り駅であった。
駅前に店一つない静かな無人駅。
付近は立派な家が立ち並ぶいわゆる高級住宅地だが
駅の裏手に回るとこの「手打そば処 山家」の看板に出会う。
自分の「故郷」にあるという意識があるからか、
ここの雰囲気は独特に感じる。
普通の蕎麦屋の姿をしているようで
そこに流れる時間は高級住宅地の中のサロンのような
とは言え何が違うわけでもない、普通の蕎麦屋のような。
普通といったが、やはり訂正しよう、
すべてのメニューが、一般的な蕎麦屋よりやや高めの値段設定である。
「おろしそば」が1100円。
しかし値段も違えば、姿も味も違う。
蕎麦にたっぷりとかかった胡麻にまず眼を見張る。
西国立 の「かめ井」で感激して以来
おろしにたっぷりの胡麻という組み合わせには弱いので
私が頼んだのではないがひと目で気に入る。
おろしが入っていた器。
たっぷりと大振りで、この絵付けこのデザイン。
なかなか出会えるものでない。
蕎麦は湘南に何故か多い平打ちである。
「もりそば」
箸先で香る正統のかぐわしさ。
しっかりしたコシを持ちつつもヒラヒラと軽やかな平打ちの食感。
噛みしめるためにふくらむ美しい味わい。
お、おいしい〜・・・
見た目は何となくのんびりしているが見事な蕎麦なのだ。
壁のメニューにある「めひびそば」も他ではあまり見かけないが
このメニュー名も知らない人には謎だろう。
卓上メニュー表の真ん中あたり・・「おやた?」。
長野県南部の「親田(おやだ)地区」に伝わる「親田辛味大根」を使った辛味おろしそば。
静かに扉を開けては入れ替わり立ち替りお客さんが入ってくる。
昼時の厨房はなかなか忙しそうだが店内は静かで居心地がいい。
長い間この地で愛され、育まれてきた「この店の時間」。
店の姿とは店だけで作っていくものでなく、
「店とお客さんで作っていくもの」だとつくづく感じされられる。
この日は午後1時には暖簾を仕舞ってしまったのだが
その商売気のなさもいかにもこの店らしい。
私の故郷にある特別な蕎麦屋だ。
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